「事務担当が1人しかいないうちの事業所で、もし産休や育休に入ったら、請求業務はどうなるんだろう」「急に辞められたら、レセプトが提出できなくなるのでは」——こうした不安を抱えている管理者・事務担当者は少なくありません。
訪問看護ステーションの多くは小規模で運営されており、請求業務を担う事務職員が1人だけ、というケースも珍しくありません。産休・育休のような「計画的な不在」と、急な退職・休職のような「計画外の不在」では、備え方が異なります。この記事では、それぞれの制度的な基本と、請求業務を止めないための体制づくりの実務を整理します。
この記事でわかること
- 事務員1人の不在が請求業務に与える影響の大きさ
- 産前産後休業・育児休業の基本的な期間と、事業所側が注意すべき点
- 急な退職・休職という計画外の不在への備え方
- 請求業務を止めないための3つの体制づくりの選択肢
- 不在に備えた体制を整える具体的な手順
目次
なぜ事務員1人の不在が請求業務を止めてしまうのか
うちのステーション、請求業務をやっているのは私だけなんです。もし私が長期間休むことになったら、どうなってしまうんでしょう……。
実は、それは珍しいことではないんです。だからこそ、不在になる前に備えておくことがとても大切なんですよ。
日本看護協会の調査では、訪問看護ステーションの常勤換算事務職員数は平均0.7人、「1人未満」と回答した事業所が58.9%にのぼるという結果が出ています。つまり、事務専任者を1人分もフルタイムで確保できていない事業所が、半数以上を占めているのが実態です。事務員1人に請求業務が集中している事業所が多いことについては、「訪問看護の管理者が請求業務を兼務するデメリットとは?5つの課題」でも詳しく解説しています。
このような体制では、担当者が長期間不在になると、明細書の作成・返戻対応・入金確認といった月次の請求業務が滞り、収入が入るタイミングが遅れてしまうおそれがあります。不在の理由が「産休・育休」のように事前にわかるものなのか、「急な退職・休職」のように突発的なものなのかによって、取るべき備えは変わってきます。
産休・育休という「計画的な不在」にどう備えるか
産前産後休業・育児休業は、労働基準法・育児介護休業法という法律で定められた労働者の権利です。まず基本的な期間を押さえておきましょう。
| 休業の種類 | 期間の目安 | 根拠法令 |
| 産前休業 | 本人の請求により6週間(多胎妊娠の場合は14週間) | 労働基準法第65条第1項 |
| 産後休業 | 本人の請求の有無にかかわらず8週間(産後6週間経過後は本人の請求と医師の許可があれば就業可) | 労働基準法第65条第2項 |
| 育児休業(原則) | 子が1歳に達するまで | 育児・介護休業法第5条第1項 |
| 育児休業(延長) | 保育所に入所できない等の事情がある場合は1歳6か月まで、それでも入所できない場合は2歳まで再延長可 | 育児・介護休業法第5条第3項・第4項 |
POINT
産休・育休は、いつから始まり、どのくらいの期間になるかを事前に見通せる休業です。だからこそ、休業に入るタイミングから逆算して、余裕を持った引き継ぎスケジュールを組むことができます。「まだ先の話だから」と後回しにせず、妊娠・出産の報告を受けた段階で、引き継ぎの準備を始めておくとよいでしょう。
なお、男女雇用機会均等法第9条第3項および育児・介護休業法第10条では、妊娠・出産・産休・育休の取得を理由に、事業主が解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁止しています。「人手が足りなくなるから」という理由で、産休・育休の取得を控えるよう求めたり、取得を理由に不利な配置転換を行ったりすることは法律違反にあたります。事業所側は、この点を踏まえたうえで、あくまで業務体制の見直しとして対応する必要があります。
急な退職・休職という「計画外の不在」にどう備えるか
産休・育休は準備できても、体調不良や急な退職はいつ起きるかわからないですよね……。そちらはどう備えればいいんでしょうか?
そこがまさにポイントです。「いつ起きるかわからない」からこそ、起きる前提で日頃から備えておく必要があるんです。
注意
体調不良による突然の休職や、予告なしに近い退職の申し出があった場合、引き継ぎの時間がほとんど取れないまま担当者が不在になることがあります。請求業務の知識が担当者の頭の中にしかない状態だと、その場で誰も対応できなくなり、明細書の作成や返戻対応が止まってしまうおそれがあります。属人化の課題については「訪問看護の属人化に関する課題|起きる原因や解消法を解説!」もあわせてご覧ください。
計画外の不在に備えるためには、「その担当者しか知らない状態」をできるだけ作らないことが重要です。具体的には、業務手順のマニュアル化、複数人での分担・クロストレーニング、そして必要に応じた外部委託の活用という3つのアプローチがあります。
請求業務を止めないための3つの体制づくり
1. 複数人でのクロストレーニング
事務職員が複数いる事業所であれば、請求業務を1人に集中させず、複数人が対応できるようお互いの業務を教え合っておくことが有効です。ただし、多くの訪問看護ステーションは事務職員が1人、または看護師・管理者が兼務している体制のため、この方法だけでは限界があります。
2. マニュアル化による属人化の解消
業務手順を文書化しておけば、担当者が不在でも、他のスタッフが手順を追って対応できます。マニュアル作成の具体的な手順は「訪問看護の事務マニュアルの作り方|属人化を防ぐ手順」で解説しています。ただし、マニュアルがあっても、対応する人手そのものが足りなければ、業務は回りません。
3. 外部委託を「いざというときの備え」として確保しておく
POINT
事務職員が1人しかいない小規模な事業所では、クロストレーニングによる分散にも限界があります。そこで、レセプト代行のような外部委託先を平時から確保しておき、担当者が長期不在になった際の「バックアップ」として活用するという考え方があります。普段は内製で対応しつつ、不在期間だけ委託範囲を広げる、といった柔軟な使い方も選択肢になります。
実務手順:不在に備えた体制を整える5ステップ
- ステップ1 現状の請求業務を棚卸しする誰が・どの業務を・どれくらいの時間で行っているかを整理し、属人化している部分を洗い出す。
- ステップ2 業務手順をマニュアル化する明細書作成・返戻対応・入金確認など、手順を文書化し、誰が読んでも対応できる状態にしておく。
- ステップ3 産休・育休の予定がわかった時点で引き継ぎ計画を立てる休業開始日から逆算し、余裕を持ったスケジュールで引き継ぎを進める。
- ステップ4 バックアップ担当者・委託先を事前に確保する社内で対応できる人がいない場合に備え、外部委託先を平時から把握し、必要なときにすぐ相談できる状態にしておく。
- ステップ5 定期的に体制を見直すマニュアルの内容が最新か、担当者以外でも対応できる状態が保たれているかを、定期的に確認する。
体制づくりで注意しておきたいポイント
- 産休・育休の取得を理由に不利益な取扱いをすることは、均等法・育児介護休業法違反にあたる
- 引き継ぎは休業に入る直前ではなく、予定がわかった時点からできるだけ早く始める
- マニュアル化は属人化を防ぐが、それだけでは物理的な人手不足は解消しない
- 外部委託先は、いざ不在が発生してから探すのではなく、平時から相談先として把握しておく
産休・育休に入る事務員の代わりに、レセプト業務を代行会社に一時的に任せることはできますか?
代行会社によって対応可能な範囲は異なりますが、一定期間だけの委託や、繁忙期・不在期間に限定した委託に応じている会社もあります。産休・育休の予定がわかった段階で、早めに複数の代行会社へ相談し、対応可否や条件を確認しておくとよいでしょう。
急に事務員が退職してしまった場合、まず何をすればよいですか?
まずは請求期限が近い業務から優先順位をつけて洗い出し、対応できる人員(管理者・看護師・外部委託先など)を確保することが先決です。並行して、退職した担当者から可能な範囲で引き継ぎ情報を得ておくと、その後の対応がスムーズになります。
産休・育休を理由に、事務員に不利益な対応をしてもよいですか?
いいえ、認められません。男女雇用機会均等法第9条第3項および育児・介護休業法第10条により、妊娠・出産・産休・育休の取得を理由とした解雇その他の不利益な取扱いは禁止されています。人手不足への対応は、あくまで業務体制の見直しとして行う必要があります。
事務員が1人しかいない小規模ステーションでは、どう備えればよいですか?
複数人でのクロストレーニングが難しい体制のため、マニュアル化に加えて、レセプト代行などの外部委託先を平時から確保しておくことが現実的な備えになります。普段は内製で対応し、不在期間だけ委託範囲を広げるといった柔軟な使い方も検討できます。
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属人化を防ぐマニュアル作りの具体的な手順は、こちらの記事で詳しく解説しています。
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まとめ|「起きてから」ではなく「起きる前」の備えが体制を守る
産休・育休は見通せる不在、急な退職・休職は見通せない不在です。それぞれの性質に応じた備えを、日頃から少しずつ進めておくことが、請求業務を止めないための一番の近道です。
この記事のまとめ
- 産前休業6週間(多胎14週間)・産後休業8週間、育児休業は原則1歳までで、事情により最長2歳まで延長できる
- 産休・育休の取得を理由とした不利益な取扱いは、均等法・育児介護休業法で禁止されている
- 計画的な不在は早めの引き継ぎ、計画外の不在はマニュアル化と外部委託の確保で備える
- 小規模で事務員が1人の事業所ほど、外部委託を「いざというときの備え」として平時から確保しておくことが現実的な選択肢になる
まずは現状の請求業務を棚卸しし、マニュアル化と、いざというときの相談先の確保から始めてみましょう。
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