「算定要件をきちんと満たしていなかったかもしれない」——過去に算定した加算について、そんな不安がよぎったことはないでしょうか。運営指導の準備をしているときや、他のスタッフから指摘を受けたときに気づくケースは少なくありません。
気づいた時点でどう対応すればよいのか、正しい手順を知らないまま放置してしまうと、後々より大きな問題になりかねません。この記事では、加算の算定に誤りがあったと分かった場合の「自主返還」の実務フローを、制度上の根拠とあわせて整理します。
この記事でわかること
- 「算定漏れ」と「返還が必要な算定誤り」の違い
- 自主返還が必要になる法的根拠(介護保険法第22条)
- 単純ミスと不正請求とで扱いが変わる点(加算金の有無)
- 返還を求められる期間(時効の考え方)
- 自主返還の実務フローと、未然に防ぐためのポイント
目次
そもそも「算定漏れ」と「返還」は別の話——まず整理しておきたいこと
過去の請求を見返していたら、本来算定できたはずの加算を請求し忘れていました……。これも「返還」しないといけないんでしょうか?
いいえ、それは「返還」とは逆のケースですね。まずこの2つを分けて考えることが大切なんです。
POINT
算定漏れ(本来算定できたのに請求し忘れていた場合)は、事業所が本来受け取れるはずだった金額を受け取れていない状態であり、「返還」の対象にはなりません。一方、算定要件を満たしていないのに誤って算定していた「過大算定」の場合は、受け取りすぎた分を事業所側から返す必要があります。この記事で扱う「自主返還」は、この過大算定のケースを指します。
なお、算定漏れに気づいた場合でも、レセプトはいったん提出・審査を経て支払いが確定しているため、後から追加で請求し直すことは基本的にできません。今後の算定で漏れがないようにする、という再発防止の観点で対応することになります。加算の算定要件そのものについては「【2026年診療報酬改定】訪問看護加算一覧|点数と算定要件まとめ」もあわせてご確認ください。
加算の過大算定が発覚したとき、なぜ「自主返還」が必要なのか
介護報酬は、算定要件を満たしていることを前提に支払われています。要件を満たしていないのに加算を算定していた場合、その分は本来受け取るべきではなかった金額(不当利得)にあたるため、事業所側から保険者へ返還する必要があります。
この点は介護保険法第22条にも規定があり、市町村(保険者)は、偽りその他不正の行為によって介護給付を受けた事業者に対して、その額を徴収できるとされています。特に重要なのは、この条文が「偽りその他不正の行為」によって受給した場合に限り、返還額に加えてその100分の40(40%)に相当する額を加算金として徴収できると定めている点です。
| ケース | 扱い | 加算金 |
| 単純な事務的過誤 | 不当利得として返還のみ | 加算金なし |
| 偽りその他不正の行為 | 返還+介護保険法22条3項の加算金 | 返還額の40%相当 |
つまり、うっかりミスによる過大算定であれば、返還すべき金額をそのまま返せばよいのに対し、故意による不正請求と判断された場合は、それに加えて4割相当の加算金が課される可能性があるということです。医療保険(訪問看護療養費)の個別指導・監査でも、故意・重大な過失・軽微な過失といった程度に応じて指定取消・戒告・注意という段階的な行政措置が設けられており、単純ミスと不正とで扱いが分けられている点は共通しています。
自主返還を求められる期間はいつまで遡るのか
もし過去にさかのぼって間違いが見つかった場合、何年前の分まで返還しないといけないんでしょうか?
ここは少しややこしいのですが、「請求する権利」と「返還を求める権利」とで時効の考え方が違うんです。
注意
事業所が介護報酬を請求する権利そのものは、介護保険法第200条第1項により2年で時効消滅します。一方、事業所が受け取りすぎた介護報酬を保険者に返還する義務(不当利得の返還請求権)は、地方自治法第236条第1項が適用され、原則5年とされています。つまり、過大算定が見つかった場合、原則として最大5年分さかのぼって返還を求められる可能性がある、ということです。
この5年という期間の考え方は、医療保険(訪問看護療養費)側の個別指導・監査においても同様に扱われており、不正・不当が認定された場合は原則5年分の返還を求められる運用になっています。長期間にわたって同じ誤りを繰り返していた場合、返還額が想定以上に大きくなることもあるため、早めに気づいて対応することが重要です。
自主返還の実務フロー
自主返還の具体的な手続きは保険者(市町村)によって様式や名称が異なりますが、一般的には次のような流れで進みます。
- ステップ1 誤りの対象期間・件数を洗い出すいつからいつまで、どの利用者・どの加算について誤った算定をしていたかを特定する。
- ステップ2 保険者へ自主点検・返還の意向を申し出る市町村の介護保険担当課(指導監査部門)に連絡し、自主的に点検・返還したい旨を伝える。
- ステップ3 保険者の指示する書類を準備する改善状況報告書、返還額一覧表など、保険者が求める書類を作成し提出する。
- ステップ4 過誤申立て等の手続きで返還・再請求を行う誤った請求を取り下げたうえで、正しい内容で再請求する手続き(過誤申立書の提出等)を行う。
- ステップ5 利用者負担分の返還も対応する利用者に過大に請求していた自己負担分についても、保険者の確認を経て利用者へ返還する。
POINT
手続きの様式・呼び方は保険者ごとに異なります。まずは自事業所が指定を受けている市町村の介護保険担当課(指導監査担当)に問い合わせ、具体的な提出書類・期限を確認することが最初の一歩になります。
過大算定を未然に防ぐためのチェックポイント
- 加算の算定要件を最新の制度改定の内容で確認しているか(改定のたびに要件が変わることがある)
- 算定要件の判断に迷う加算は、算定前にダブルチェックする体制があるか
- 運営指導・監査の前に、自主点検の機会を定期的に設けているか
- 誤りに気づいた時点で放置せず、早めに保険者へ相談しているか
運営指導・監査で指摘されやすい書類の傾向については「訪問看護の運営(実地)指導・監査で指摘されやすいレセプト関連の書類とは」、事務員が押さえておきたい注意項目は「訪問看護で運営指導でよく注意される項目〜事務員編〜」もあわせてご覧ください。
加算の算定漏れ(請求し忘れ)に後から気づいた場合、追加で請求できますか?
すでに提出・審査が完了したレセプトについて、後から追加で請求し直すことは基本的にできません。算定漏れに気づいた場合は、今後の請求で同じ漏れが起きないよう、算定要件の確認体制を見直すことが現実的な対応になります。
自主返還にはペナルティ(加算金)がかかりますか?
単純な事務的過誤による過大算定であれば、返還すべき金額をそのまま返還すれば足り、加算金は課されません。一方、介護保険法第22条3項により、偽りその他不正の行為によって介護給付を受けたと判断された場合は、返還額に加えてその40%相当額が加算金として徴収される可能性があります。
何年前まで遡って返還を求められますか?
事業所が受け取りすぎた介護報酬を返還する義務の消滅時効は、地方自治法第236条第1項により原則5年とされています。介護報酬を請求する権利自体の時効は2年ですが、返還請求権はこれとは別に5年で扱われる点に注意が必要です。
利用者に請求した自己負担分はどうすればよいですか?
過大に算定していた分について利用者から自己負担金を受け取っていた場合、その分は利用者へ返還する必要があります。保険者への返還手続きとあわせて、保険者の確認を経たうえで、利用者への返還も進めることになります。
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まとめ|気づいた時点で早めに、正しい手順で対応することが最善策
加算の過大算定は、誰にでも起こりうるミスです。大切なのは、気づいた時点で放置せず、正しい手順で自主的に対応することです。
この記事のまとめ
- 「算定漏れ(請求し忘れ)」と「過大算定(返還が必要な誤り)」は別の話であり、混同しないよう整理しておく
- 単純ミスは返還のみ、偽りその他不正の行為には返還額の40%の加算金が課される(介護保険法第22条3項)
- 返還請求権の時効は地方自治法第236条により原則5年で、請求権自体の2年(介護保険法第200条)とは別の考え方になる
- 自主返還は、保険者への申し出→書類準備→過誤申立て・再請求→利用者負担分の返還という流れで進める
誤りに気づいたら、まずは自事業所の指定権者(市町村の指導監査担当)へ相談することから始めましょう。
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