「クレーム対応で、本当に謝るべきなのだろうか?」
訪問看護ステーションでクレーム対応をしている事務職員は、このような疑問を抱くことはないでしょうか。
実は、謝罪が必ずしも最善の解決策ではないケースがあるのも事実です。
今回は、クレーム対応において「謝らない」という判断が適切なケースを解説します。
しかし、謝らない対応は一歩間違えれば、関係悪化や信頼失墜にもつながりかねません。
そこで謝らないクレーム対応で避けたい行動についてもあわせて解説していきます。
ぜひ参考にしてください。
目次
クレーム対応で「謝らない」が有効な2つのケース
クレーム対応において謝らない選択肢が有効なのは、主に以下の2つの状況です。
安易な謝罪はかえって問題を複雑化させたり、企業側に不利な状況を作り出したりする可能性がありますので、押さえておきましょう。
企業に明確な非がない、または誤解によるクレームの場合
企業側に製品やサービスの瑕疵(かし)がないにもかかわらず、顧客が誤解や情報不足によってクレームを申し立ててくるケースです。
瑕疵とは、法的には「その物が通常有すべき品質、性能、安全性を欠いている状態」を指します。
たとえば、利用者さんがサービス内容を誤って解釈していたり、誤った情報にもとづいて不満を訴えていたりする場合などが当たります。
この場合、まずは顧客の誤解を解くために説明し、正しい情報提供をしましょう。
謝罪は企業が非を認めたと解釈され、本来不要な責任を負うことにもつながりかねません。
顧客の過失や不当な要求、無理難題の場合
顧客自身の不注意や間違った使用方法によって問題が発生した場合、あるいは社会通念上、企業が応じるべきではないと判断されるような無理な要求や金銭的な要求をしてくるケースです。
たとえば、訪問看護で「サービス外の個人的な依頼をしてほしい」といった要求や、「本来支払うべき利用料を無料にしてほしい」といった不当な要求などが該当します。
このような状況で謝罪してしまうと、顧客の不当な要求をエスカレートさせる原因となり、企業にとって大きな損失や負担を招く可能性があります。
毅然とした態度で、企業のポリシーと限界を明確に伝えましょう。
「謝らない」クレーム対応の3つのメリット
クレーム対応で謝らない選択は、一見すると冷たい印象を与えるかもしれませんが、状況によっては非常に有効な手段となり得ます。
企業の正当性を守り、不当な要求を排除できる
企業に非がないケースで謝罪をすると、「非を認めた」と解釈される恐れがあります。
すると顧客からの不当な要求がエスカレートしたり、さらなる賠償を求められたりするきっかけになりかねません。
謝らない対応を貫くことで、企業は自社の正当性を主張し、不必要な責任や損失から身を守れるでしょう。
これにより、企業の利益と評判も守れます。
従業員の精神的負担を軽減し、モチベーション維持につながる
クレーム対応は、対応する従業員にとって大きなストレスとなります。
特に、非がないにもかかわらず謝罪を強いられることは精神的な負担が大きく、モチベーションの低下にもつながりかねません。
謝らない対応が適切なケースでは、従業員が自信をもって対応できるようになり、不必要な罪悪感やストレスから解放されます。
これにより、従業員のエンゲージメント向上にもつながります。
企業のブランドイメージや信頼性が維持を損なわない
常に謝罪ばかりしていると、顧客から「この企業はいつも何か問題を起こしている」というネガティブな印象をもたれかねません。
謝らない対応を適切に行えば、企業は自社の製品やサービス、対応品質に自信と責任をもっていると示せます。
これにより顧客からの信頼性が高まり、長期的なブランドイメージの維持にもつながるでしょう。
謝らないクレーム対応で絶対にしてはいけないNG行為
謝らないクレーム対応は、正しい知識とスキルをもって行わなければ、かえって事態を悪化させる諸刃の剣となります。
ここでは、絶対に避けるべきNG行為を具体的に解説します。
クレーム対応のNG例を詳しく知りたい方は「訪問看護のクレーム対応NG例とは?ありがちな失敗と防止策を解説」も参考にしてください。
ビジケア訪問看護事務マガジン
訪問看護のクレーム対応NG例とは?ありがちな失敗と防止策を解説 | ビジケア訪問看護事務マガジン
「訪問看護のクレーム対応でNGな対応例ってどのようなもの?」 このようにお悩みではないでしょうか。 利用者さんやご家族との会話で、何気ない一言がきっかけでクレームが…
1.顧客の話を途中で遮る、聞く耳をもたない
「どうせ言いがかりだろう」
顧客がクレームを訴えているのに、このように聞く耳をもたない態度は相手の不満をさらにつのらせ不信感を与えます。
まずは最後まで傾聴し、顧客の感情を受け止める姿勢を示しましょう。
2.顧客を非難したり感情的に反論したりする
- 「それはお客様の間違いです」
- 「当社のせいにしないでください」
こういった、顧客を非難したり感情的に反論したりすることは絶対に避けましょう。
このような対応は、顧客の自尊心を傷つけ、対立を深めるだけです。
たとえ顧客に非がある場合でも、感情的にならず、論理的で客観的な事実にもとづいて説明してください。
3.事実と異なる情報を伝える、嘘をつく
その場しのぎで事実と異なる情報を伝えたり、嘘をついたりすることは、後々発覚した際に企業の信頼を落とす要因になります。
たとえ不利な事実であっても、正直に伝えることが長期的な信頼関係を築くうえで不可欠です。
情報が不明確な場合は、「確認して改めてご連絡します」と伝え、安易な発言は避けるべきです。
4.無責任な発言や約束をする
こういった無責任な発言や、実行不可能な約束もNGです。
後で約束が果たされなかった場合、顧客はさらに強い不満を抱き、企業への不信感をつのらせます。
対応できることとできないことを明確にし、曖昧な表現は避け、責任の伴う発言を心がけましょう。
5.一貫性のない対応や場当たり的な発言をする
対応する担当者によって言うことが違ったり、一度言ったことと矛盾する発言をしたりすると、顧客は「この企業は信用できない」と感じます。
社内でクレーム対応のガイドラインを共有し、どの担当者が対応しても一貫したメッセージが伝えられるようにしましょう。
場当たり的な発言は避け、常に統一された対応を心がけてください。
訪問看護の現場で役立つ!謝らないクレーム対応の心得
訪問看護の現場では、利用者さんやご家族との距離が近く、デリケートな問題に触れることも少なくありません。
だからこそ、クレーム対応の心得をもつことが重要です。
ここでは、特に訪問看護の事務職員が「謝らない」クレーム対応を行う際に役立つ心構えと実践のポイントを紹介します。
1.専門職としての自信とプライドをもつ
訪問看護の職員は、医療や介護の制度知識をもつプロフェッショナルです。
提供しているサービス内容を制度の観点から説明できる知識が求められます。
不当なクレームに対しては、「専門家として、これは〇〇といった理由から対応できません」と、自信をもって説明できるようになりましょう。
2.利用者さん・家族との信頼関係構築に努める
日頃から利用者さんやご家族との間に良好な信頼関係を築いておくことが、クレーム発生時の対応をスムーズにします。
信頼関係があれば、仮に誤解が生じた場合でも冷静に話し合い、解決へと導きやすくなります。
些細なことでも密にコミュニケーションをとり、信頼の貯金を積み重ねておきましょう。
3.チームでの情報共有と連携を密にする
一人でクレーム対応を抱え込まず、事業所内のチーム全体で情報を共有し、連携体制を築きましょう。
特に謝らない対応が必要なケースでは、複数の視点から状況を判断し、組織として一貫した対応をとる必要があります。
判断に迷う場合は、必ず上長や同僚に相談しましょう。
まとめ
クレーム対応で「謝らない」という選択肢は、企業に非がない場合や、不当な要求に対して自社の正当性を守るうえで大変重要です。
しかし、徹底した事実確認や毅然とした論理的な説明が不可欠となります。
また、日頃から利用者さんやご家族との良好な信頼関係を築き、専門職としての自信をもっておくことも大切です。