- 「一般事務の経験はあるけど、訪問看護の事務って何が違うんだろう?」
- 「医療の専門知識がないと難しいかな?」
訪問看護の事務の仕事に興味をもちつつも、このような不安を抱えていませんか?
この記事では、訪問看護ステーションの事務職員の具体的な仕事内容、一般事務との違い、そして仕事のやりがいまでを解説します。
この記事を読み終える頃には、あなたが訪問看護の事務として働く姿を具体的にイメージできるようになっているはずです。
目次
訪問看護の事務とは?一般・医療事務との違いがわかる比較表
訪問看護の事務とは、一般事務のスキルに加えて「医療保険・介護保険」の知識が求められる、専門性の高い事務職です。
その役割は、単なる事務作業にとどまりません。
利用者さんやそのご家族、医師、ケアマネジャー、そして訪問スタッフと連携し、ステーション全体の運営を円滑にする役割を担っています。
一般事務や病院の医療事務とどう違うのか、以下の表で比べてみましょう。
項目 | 一般事務 | 医療事務(病院・クリニック) | 訪問看護事務 |
---|
主な業務 | 書類作成 データ入力 電話対応 | レセプト業務 窓口対応 会計 | 医療・介護両方のレセプト業務 多職種連携 訪問スタッフのサポート |
関わる人 | 社内の従業員 取引先 | 外来患者 医師 看護師 | 利用者さんとそのご家族 ケアマネジャー 訪問スタッフ |
必要な知識 | PCスキル ビジネスマナー | 医療保険の知識 医療用語 | 医療保険+介護保険の知識 在宅医療の理解 |
このように、訪問看護の事務は在宅医療の最前線を支える、非常に重要なポジションであることがわかります。
訪問看護事務の主な5つの仕事内容
訪問看護の事務の仕事は多岐にわたりますが、主に以下の5つが中心となります。
ステーション全体の業務が円滑に進むようにサポートする、まさに司令塔の役割です。
- レセプト作成・請求業務
- 電話・来客対応と多職種連携のハブ役
- 訪問スタッフの勤怠管理とスケジュール調整補助
- 書類作成と管理
- 備品・医療消耗品管理と経費精算などの庶務
それぞれの業務を詳しく見ていきましょう。
レセプト作成・請求業務
訪問看護事務の業務の中でも、最も専門的で重要なのがレセプト業務です。
レセプトとは「診療報酬明細書」のことで、保険者に対し、提供したサービスの費用を請求するための明細書を指します。
簡単に言えば「誰に、どんなサービスを、いつ提供したので、費用は〇〇円です」という請求書を作成する仕事です。
この請求がなければステーションの収益はゼロになるため、経営を直接支える生命線と言える業務です。
訪問看護では「医療保険」と「介護保険」の2種類を扱うため、両方の制度を正しく理解し、毎月正確に請求することが求められます。
電話・来客対応と多職種連携のハブ役
事務職は、ステーションの顔として外部とのあらゆる窓口を担います。
利用者さんやご家族はもちろん、ケアを計画するケアマネジャー、指示を出す主治医、連携する病院のスタッフなど、さまざまな人と最初にコミュニケーションをとるのが事務員です。
たとえば、ご家族からの「熱があるみたい」という一本の電話を受け、正確に看護師へ伝えることで利用者さんの急変にいち早く対応できます。
丁寧で的確な対応が、そのままステーションの評価につながります。
電話や来客時のコミュニケーションが、ステーション全体の信頼を左右するといっても過言ではありません。
訪問スタッフの勤怠管理とスケジュール調整補助
訪問スタッフが安心して現場でのケアに集中できるよう、バックオフィス業務で支えることも大切な仕事です。
看護師やリハビリ専門職のスタッフは、日々利用者さんのご自宅を訪問しています。
彼らがスムーズに業務を行えるように環境を整えるのが、事務の役目です。
具体的には、タイムカードの集計や有休の管理といった勤怠業務、訪問スケジュールの変更に伴う関係各所への連絡補助などを行います。
たとえば「〇〇さんの訪問時間が変更になりました」とケアマネジャーに一本連絡を入れる、といった細やかなサポートが、チームのスムーズな連携を生み出します。
スタッフを支える縁の下の力持ちとしての役割は、質の高いチームケアに不可欠です。
書類作成と管理
訪問看護では、法律や制度に基づいて多くの重要書類を取り扱います。
利用者さんと交わす契約書、ケアの方向性を定める訪問看護計画書、主治医へ病状などを伝える訪問看護報告書などさまざまです。
事務職員の仕事は、これらの書類を不備なくファイリング・管理したり、期日通りに発送したりすることです。
書類に不備があると、サービスの提供や保険請求に影響が出てしまう可能性もあります。
一般事務で培った書類管理能力やミスのない正確性は、この業務で大いに活かせるでしょう。
備品・医療消耗品管理と経費精算などの庶務
ステーション運営を支える、幅広い庶務業務も担当します。
事務用品から、包帯・消毒液・手袋といった専門的な医療消耗品まで、必要なものが不足しないように管理することで、日々の業務が滞りなく進みます。
また、事務所内の清掃や整理整頓、郵便物の仕分けといった業務も含まれます。
地味に見えるかもしれませんが、これらの業務がステーションのスムーズな運営を支えているのです。
事務職員の細やかな気配りと管理能力が、スタッフ全員にとって働きやすい職場環境を作り出します。
現場の一日に密着!訪問看護事務員のリアルなタイムスケジュール
「訪問看護の事務って、具体的にどんな一日を過ごすんだろう?」
このように疑問に思う方もいるでしょう。
ここでは、ある事務員の一日のケースを時系列で紹介します。
仕事の具体的なイメージをつかんでみてください。
8:30|出勤・朝礼・メールチェック
まずはステーション内の清掃や環境整備を行った後、看護師や他のスタッフとの朝礼に参加し、その日の訪問予定や特記事項を共有します。
その後自席に戻り、関係機関からのメールやFAXをチェックして対応の優先順位をつけます。
9:00|電話対応・前日の訪問実績の入力
始業と同時に、ケアマネジャーや利用者様からの電話が鳴り始めます。
問い合わせに対応しながら、前日にスタッフが行った訪問の実績を専用ソフトに入力していきます。
この入力作業が月末のレセプト作成の基礎となるため、正確に記録することが大切です。
12:00|お昼休憩
スタッフと談笑しながらランチタイム。
訪問先でのエピソードを聞いたり、情報交換をしたりと、和やかな雰囲気でリフレッシュします。
午後の業務に向けて、頭と体を休める大切な時間です。
13:00|ケアマネジャーとの連絡・書類整理
午後は新規利用者さんの受け入れに関する連絡や、サービス担当者会議の日程調整などをケアマネジャーと行います。
また、溜まってきた書類を整理・ファイリングし、いつでも誰でも必要な情報を取り出せるように管理します。
15:00|翌日の訪問スケジュール確認・備品発注
翌日の訪問スケジュールに急な変更がないかを確認し、必要があれば関係各所へ連絡します。
同時に、少なくなってきた医療消耗品や事務用品の在庫をチェックし、業者へ発注をかけます。
17:00|日報チェック
訪問から戻ってきたスタッフの日報に目を通し、入力漏れなどがないかを確認します。
月末が近い時期は、少しずつレセプト作成の準備を進めていきます。
一日の業務内容を整理し、翌日にやるべきことのリストアップも欠かせません。
17:30|退勤(※月末月初は残業の可能性あり)
業務が終わり次第、退勤します。
ただし、レセプト請求業務が集中する月末から翌月10日頃までは、残業が発生することもあります。
繁忙期以外は、比較的定時で帰りやすい職場が多いでしょう。
訪問看護事務の仕事に有利な資格
ここからは、訪問看護の事務職員がもっていると仕事に役立つ可能性のある資格を紹介します。
結論から言うと、訪問看護の事務になるために必須の資格はなく、未経験からスタートする方もいる職種です。
とはいえ、以下の資格をもっていると働きやすい可能性があります。
医療事務関連資格
医療保険制度やレセプト業務の基礎知識を証明できます。
「メディカルクラーク(医療事務技能審査試験)」が有名です。
病院での医療事務経験があればその知識は大きな強みになりますが、訪問看護特有のルールを新たに学ぶ必要はあります。
介護事務管理士®
介護保険制度に特化した事務スキルを証明する資格です。
訪問看護では介護保険を利用する方が多いため、この資格で得た知識はレセプト業務などで直接的に役立ちます。
医療保険と介護保険、両方の知識があると鬼に金棒です。
簿記検定
日商簿記検定3級以上をもっていると、経費精算や会計ソフトへの入力といった経理業務でスキルをアピールできます。
ステーションの経営状況を数字で理解する助けにもなり、経営者の視点に近い立場で仕事ができるようになるでしょう。
もっていると仕事に有利に働く資格は、「訪問看護の事務に必要な資格は?もっていると役立つ資格も紹介!」で詳しく解説しています。
ビジケア訪問看護事務マガジン
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訪問看護事務のキャリアプラン
訪問看護事務としてよりスキルアップし、キャリアを上げていきたい場合は、「替えのきかない存在」になることが重要です。
まずは、医療保険と介護保険、両方のレセプト業務を完璧にこなせるようになることが目標です。
そのうえで、ステーション全体の業務フローを改善する提案をしたり、新人教育を担当したりと、事務業務の枠を超えた役割を担うことで評価が高まります。
将来的には、複数の事務員をまとめる「事務長」や、ステーションの運営全体に関わる「管理者」といった役職を目指すキャリアパスも考えられます。
訪問看護業界は、高齢化を背景に今後ますます需要が拡大していく成長産業です。
訪問看護事務のやりがいと大変なこと
どんな仕事にも、良い面と厳しい面があります。
訪問看護事務として活躍していくためには「やりがい」と「大変さ」の両方をリアルに知っておくことが大切です。
訪問看護事務の3つの大きなやりがい
訪問看護の事務は、日々多くのやりがいを感じられる仕事です。
特に大きな喜びとして、以下の3つが挙げられます。
1.看護師や利用者さんから「ありがとう」と直接感謝される喜び
事務の丁寧な電話対応や迅速なスケジュール調整に対して、訪問スタッフから「いつも助かるよ、ありがとう!」と声をかけられる機会があります。
また、利用者さんやご家族から「あなたが電話口にいると安心するわ」といった感謝の言葉を直接いただけることもあります。
誰かの役に立っている実感を得やすいのは、この仕事の大きな魅力です。
2.地域医療を最前線で支えているという実感
訪問看護は、高齢化社会が進む日本において地域包括ケアシステムの要となる重要なサービスです。
事務職はレセプト請求や多職種連携を通じて、その最前線を支えています。
自分の仕事が地域の誰かの在宅生活を支え、社会に貢献しているという誇りを感じられます。
これは、一般企業の事務ではなかなか得られない感覚でしょう。
3.医療と介護の専門知識が身につき自分の成長につながる
働きながら、医療保険と介護保険という複雑で専門的な知識が自然と身についていきます。
最初は難しく感じるかもしれませんが、知識が増えるほどに仕事の精度が上がり、対応できる業務の幅も広がります。
専門性を高めていくことで、自分自身の市場価値も向上し、大きな成長を実感できるでしょう。
訪問看護事務の3つの大変なこと
一方で、もちろん大変できついと思うこともあります。
しかし乗り越え方を知っておけば、必要以上に恐れることはありません。
1.月末月初に集中するレセプト業務のプレッシャー
毎月1日から10日にかけては、レセプト請求の締切に追われるため、非常に忙しくなります。
ミスがあると返戻となり、入金が遅れてしまうため、大きなプレッシャーがかかります。
日々の業務の中で、訪問実績の入力をこまめに行い、ミスがないかダブルチェックする習慣をつけることが重要です。
繁忙期に業務が集中しないように、計画的に仕事を進めるスキルが身につきます。
2.覚えることの多さ(専門用語・保険制度・関係者の名前など)
医療や介護の専門用語、複雑な保険制度、さらには多くの利用者さんやケアマネジャーの名前と顔を覚える必要があります。
最初は情報の多さに戸惑うかもしれません。
いきなりすべてを覚えようとせず、まずはメモをとり、わからないことはすぐに先輩や看護師に質問しましょう。
経験を積むうちに、自然と知識は定着していきます。
学ぶ意欲さえあれば大丈夫です。
3.急な変更や緊急対応に追われるマルチタスクの難しさ
利用者さんの容態は常に変化するため、「訪問予定が急遽キャンセルになった」「緊急で訪問してほしい」といった連絡は日常的に発生します。
電話対応をしながら来客に対応し、書類作成も進めるといったマルチタスク能力が求められます。
すべての業務に優先順位をつけることが大切です。
「今すぐやるべきこと」「後でも良いこと」を判断し、一つひとつ着実にこなしていけば、冷静に対応できるようになります。
あなたはどっち?訪問看護事務に「向いている人・向いていない人」診断
ここまで読んで「自分は訪問看護の事務に向いているのかな?」と感じた方もいるでしょう。
ここでは、簡単なチェックリストであなたの適性を診断します。
【向いている人】5つの適性チェックリスト
以下の項目に当てはまるなら、あなたは訪問看護事務に向いている可能性が高いです。
- サポート役が好きで、誰かの役に立つことに喜びを感じる
- 数字のチェックや書類の確認など、細かい作業が苦にならない
- 人とコミュニケーションをとることが好きで、丁寧な言葉遣いを心がけている
- 複数の作業を同時に進めるマルチタスクが得意、または苦手意識がない
- 新しい知識を学ぶことに前向きで、成長意欲がある
特に「誰かを支えたい」という気持ちは、この仕事で最も大切な素質です。
一般事務で培った丁寧な作業能力やPCスキルは、間違いなく大きな武器になるでしょう。
【向いていない人】少し立ち止まって考えたい3つの特徴
一方で、以下のような特徴がある方は、この仕事が少し大変に感じられるかもしれません。
- 自分のペースで黙々と一つの作業に集中したい(理由:急な電話や来客で作業が中断されることが多いため)
- 大雑把な性格で、細かい数字や文字のチェックは苦手(理由:レセプト業務など、1円単位のミスも許されない正確性が求められるため)
- 定型的なルーティンワークだけをしていたい(理由:保険制度の改正など、常に新しい知識の学習が必要になるため)
もちろん、これらに当てはまるからといって絶対になれないわけではありません。
しかし、求められる資質との間にギャップがあることは認識しておくと良いでしょう。
訪問看護の事務に関するよくある4つの質問
最後に、訪問看護の事務を目指す方からよくある質問とその回答をまとめました。
あなたの最後の疑問や不安をここで解消してください。
- ①パソコンスキルはどの程度必要ですか?
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Wordでの簡単な文書作成、Excelでの表作成や基本的な関数(SUMなど)が使えれば十分です。
高度なスキルは必要ありません。
レセプト作成には専用のソフトを使いますが、操作方法は入社後に丁寧に教えてもらえますので安心してください。
タッチタイピングができると、業務効率が格段に上がります。
- ②残業は多いですか?休みはとりやすいですか?
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レセプト業務が集中する月末月初以外は、残業はあまりありません。
土日祝日が休みのステーションも多く、プライベートとの両立もしやすい傾向にあります。
有休も、事前に申請すれば問題なく取得できる職場が多いでしょう。
ただし、事業所による差は大きいので、面接時に確認することをおすすめします。
- ③事務員は何人体制のステーションが多いですか?
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ステーションの規模によりますが、事務員1〜2名体制のところが多いです。
小規模なステーションでは事務員が1名ということも珍しくなく、その場合は幅広い業務を一人でこなすことになります。
一方で、大規模なステーションでは複数人の事務員で業務を分担することも。
自分がどちらの環境で働きたいかを考えておくと良いでしょう。
- ④医療事務の経験は、訪問看護のレセプトでどのくらい活かせますか?
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病院やクリニックでの医療事務経験は、大きな強みになります。
医療保険の基本的な仕組みやレセプトの全体像を理解しているため、仕事に慣れるのが早いでしょう。
ただし、訪問看護では介護保険のレセプトも扱うため、新たに学ぶべきことも多くあります。
まとめ
今回は、訪問看護の事務の仕事内容や一般事務との違い、やりがいなどを詳しく解説しました。
訪問看護の事務は、単なるデスクワークではありません。
訪問スタッフを支え、多職種と連携し、利用者さんの在宅生活を守る地域医療に不可欠な誇り高い専門職です。
一般事務で培った経験は、必ずこの仕事で活かせます。
この記事で得た知識が不安を自信に変え、新しいキャリアへ踏み出すきっかけとなれば幸いです。