「この利用者さん、介護認定を持っているけど医療保険で請求していいの?」「別表第7の疾患があると聞いたけど、どうやって確認すればいい?」——訪問看護の事務業務で、保険の適用判断に迷う場面は少なくありません。医療保険と介護保険のどちらを使うかは、請求先・回数制限・自己負担のすべてに影響する、事務スタッフが最初に押さえるべき基本中の基本です。
この記事では、「介護保険優先」の原則と、医療保険が優先される4つの例外条件を、判断フローとあわせて事務担当者目線でわかりやすく解説します。別表第7の疾患一覧や、特別訪問看護指示書が出たときの切り替え手順、保険区分を間違えたときの対処法まで網羅しています。保険選択に迷ったときは、この記事を確認すれば判断できる内容をまとめました。
この記事でわかること
- 訪問看護で「介護保険が優先」される原則とその根拠
- 医療保険が優先になる4つのケース(別表第7・特別指示書・精神科・年齢)
- 別表第7(厚生労働大臣が定める疾病等)の全疾患一覧と事務の確認ポイント
- 特別訪問看護指示書が発行されたときの保険切り替え手順
- 医療保険・介護保険で変わる請求先・回数制限・自己負担の違い
- 保険区分を間違えたときの返戻・過誤対応の実務フロー
目次
訪問看護の保険適用の基本:介護保険が優先される理由
利用者さんに介護認定がある場合は、必ず介護保険で請求するんですよね? でも先輩が「医療保険になる場合もある」って言っていて、どういうことか分からなくて……。
基本は介護保険優先ですが、4つの例外があるんです。この原則と例外をセットで覚えると、どの保険を使うかが自然に判断できるようになりますよ。
訪問看護の保険適用は、要介護・要支援の認定を受けている人には介護保険が優先されるというのが大原則です。これは介護保険法の「他法優先」の考え方に基づいており、厚生労働省の公式資料においても「介護保険からの給付が最優先になる」と明記されています。
POINT|介護保険優先の原則
65歳以上で要支援・要介護の認定を受けている人、または40〜64歳で介護保険の「16特定疾病」に該当し要介護認定を受けている人は、原則として介護保険で訪問看護を利用します。医療保険と介護保険は同月内に併用することはできません。
介護保険が優先される理由は、社会保険制度の設計上、介護が必要な状態になった人を介護保険で支えるというしくみが整っているためです。ただし、医療的な緊急性や特定の疾患・状態によって、介護認定を受けている人でも医療保険が優先されるケースが定められています。
保険適用を判断するための基本フロー
利用者の保険区分を判断する際は、次の順番で確認します。
- 年齢を確認する40歳未満であれば医療保険のみ対象(介護保険の被保険者ではないため)。
- 介護認定の有無を確認する要支援・要介護の認定がなければ医療保険が適用。
- 別表第7(厚生労働大臣が定める疾病等)に該当するか確認する介護認定があっても、別表第7に該当する疾病等があれば医療保険が優先。
- 特別訪問看護指示書の有無を確認する主治医から特別訪問看護指示書が発行されている期間中は医療保険が適用。
- 精神科訪問看護か確認する主傷病が精神疾患(認知症を除く)であれば医療保険が優先。
- 上記すべてに該当しなければ介護保険を適用する
医療保険が優先になる4つのケースを整理する
介護認定を受けていても医療保険になるケースがあるんですね。どんなパターンがあるか整理して教えてもらえますか?
大きく分けて4つです。「年齢・認定なし」「別表第7の疾患」「特別訪問看護指示書」「精神科」ですね。それぞれポイントが違うので順番に見ていきましょう。
厚生労働省の資料では、介護認定を受けた人でも医療保険が適用される条件として、主に以下の4つが定められています。
| ケース | 具体的な条件 | 適用保険 |
| ①年齢・認定なし | 40歳未満/40〜64歳で介護保険の特定疾病に非該当/65歳以上で未認定 | 医療保険 |
| ②別表第7の疾病等 | 厚生労働大臣が定める20疾病・状態に該当(末期がん・ALSなど) | 医療保険(介護認定があっても) |
| ③特別訪問看護指示書 | 主治医から特別訪問看護指示書が発行されている期間(最長14日) | 医療保険(指示書期間中のみ) |
| ④精神科訪問看護 | 主傷病が精神疾患(認知症を除く)の場合 | 医療保険 |
この4つのケースを押さえておけば、利用者の状態に応じて「介護保険か医療保険か」の判断を迷いなく行えます。それぞれ詳しく解説していきます。
ケース①:年齢や認定状況で医療保険になるパターン
そもそも介護保険の被保険者でない場合は、医療保険のみが適用されます。具体的には以下の通りです。
- 40歳未満:介護保険の第1号・第2号被保険者のいずれにも該当しないため、医療保険が適用されます。
- 40〜64歳で介護保険の16特定疾病に非該当:この年齢層は第2号被保険者ですが、特定疾病が原因でなければ要介護認定を受けることができないため、医療保険が適用されます。
- 65歳以上で要介護・要支援の認定を受けていない方:認定がなければ介護保険サービスを利用できないため、医療保険が適用されます。
別表第7(厚生労働大臣が定める疾病等)の全疾患一覧と事務の確認ポイント
別表第7って聞いたことがあるんですが、どんな疾患が対象なのか全然わかっていなくて……。どうやって確認すればいいですか?
別表第7は全部で20の疾病・状態が定められています。訪問看護指示書の「主たる傷病名」欄と照らし合わせて確認するのが実務のコツですよ。
「別表第7」とは、「特掲診療料の施設基準等別表第7に掲げる疾病等」の略称で、要介護・要支援の認定を受けていても医療保険で訪問看護を行うと定められた疾病・状態のリストです。厚生労働省が定めており、全部で20項目あります。
注意|別表第7は介護認定の有無に関わらず医療保険が適用
要介護5の認定を受けていても、別表第7に該当する疾病があれば、訪問看護は必ず医療保険で請求します。介護保険で誤請求しないよう、新規利用者の受け入れ時に傷病名を必ず確認してください。
別表第7 全疾病・状態一覧
| No. | 疾病等の名称 | 備考 |
| 1 | 末期の悪性腫瘍 | 在宅ターミナルケアを行う利用者が多い |
| 2 | 多発性硬化症 | — |
| 3 | 重症筋無力症 | — |
| 4 | スモン | — |
| 5 | 筋萎縮性側索硬化症(ALS) | 人工呼吸器管理が必要なことが多い |
| 6 | 脊髄小脳変性症 | — |
| 7 | ハンチントン病 | — |
| 8 | 進行性筋ジストロフィー症 | — |
| 9 | パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症・パーキンソン病) | パーキンソン病はホーエン・ヤール重症度分類ステージ3以上かつ生活機能障害度Ⅱ度またはⅢ度に限る |
| 10 | 多系統萎縮症(線条体黒質変性症・オリーブ橋小脳萎縮症・シャイ・ドレーガー症候群) | — |
| 11 | プリオン病 | — |
| 12 | 亜急性硬化性全脳炎 | — |
| 13 | ライソゾーム病 | — |
| 14 | 副腎白質ジストロフィー | — |
| 15 | 脊髄性筋萎縮症 | — |
| 16 | 球脊髄性筋萎縮症 | — |
| 17 | 慢性炎症性脱髄性多発神経炎 | — |
| 18 | 後天性免疫不全症候群(AIDS) | — |
| 19 | 頸髄損傷 | — |
| 20 | 人工呼吸器を使用している状態 | 疾病名ではなく「状態」で判断する |
No.9のパーキンソン病にはステージの条件(ホーエン・ヤール分類ステージ3以上)があるため注意が必要です。訪問看護指示書の傷病名に「パーキンソン病」とあっても、重症度が条件を満たしていなければ別表第7には該当しません。主治医に確認するか、指示書のコメント欄を確認しましょう。
事務担当者の確認ポイント
- 新規利用者の受け入れ時に訪問看護指示書の「主たる傷病名」を別表第7リストと照合する
- パーキンソン病の場合はホーエン・ヤール重症度分類のステージを必ず確認する
- 「人工呼吸器を使用している状態」は疾病名ではなく状態での判断なので、使用機器・状態の記録も確認する
- 判断に迷った場合は主治医・ケアマネジャーに問い合わせて記録を残す
特別訪問看護指示書が発行されたら医療保険に切り替わる
特別訪問看護指示書が来たとき、その月の途中から保険が変わるんですよね? 月の途中で切り替わる場合の処理が不安で……。
そうです。特別指示書の期間中だけ医療保険に切り替わります。同じ月に介護保険と医療保険の両方で請求することになるので、日付管理が大切ですよ。
利用者の病状が急性増悪などで悪化し、週3回を超える頻回な訪問看護が必要になった場合、主治医は通常の訪問看護指示書とは別に「特別訪問看護指示書」を交付できます。この指示書が発行されている期間中は、介護保険の認定を受けていても医療保険が優先適用されます。
POINT|特別訪問看護指示書の基本ルール
・原則として月1回、最長14日間の発行が可能
・気管カニューレ使用または真皮を越える褥瘡がある利用者は月2回まで発行可
・指示書の期間中は週4日以上の訪問が可能(通常の医療保険は週3日まで)
・指示書期間終了後は介護保険に戻る
月の途中で切り替わる場合の請求処理
同月内に介護保険と医療保険の両方で訪問している場合、月末に2つのレセプトを分けて作成します。どちらの保険で訪問したかを日付ごとに記録管理しておくことが、正確な請求の前提です。
- 特別訪問看護指示書の交付日と有効期間を確認する指示書が届いたら、開始日・終了日をカレンダーや管理表に記録する。
- 指示書期間中の訪問日を医療保険として記録する訪問記録に「特別指示書期間」の区分を明記し、介護保険の訪問日と分けて管理する。
- 月末に2保険のレセプトを別々に作成する指示書期間分を医療保険レセプト、それ以外を介護保険レセプトとして請求する。
- 翌月から介護保険に戻る指示書期間が終了したら自動的に介護保険に戻るため、切り替え忘れがないか確認する。
注意|特別訪問看護指示書は通常の訪問看護指示書と別書類
通常の訪問看護指示書の中に「特別」と記載されているだけでは特別訪問看護指示書になりません。「特別訪問看護指示書」という専用様式(様式17の5)が別途交付されて初めて有効となります。書類の種類を確認してから保険の切り替え処理を行いましょう。
精神科訪問看護は医療保険が原則(認知症との違いに注意)
精神科の利用者さんで、認知症の方も担当しているんですが、認知症でも医療保険になるんですか?
認知症は精神科訪問看護の例外なんです。認知症の方は介護保険が適用されます。「精神科 = 医療保険優先」ですが、認知症だけは違うので覚えておいてくださいね。
精神疾患を主傷病とする利用者への訪問看護(精神科訪問看護)は、介護認定の有無に関わらず医療保険が優先的に適用されます。ただし、認知症(F00〜F09)は精神科訪問看護の適用外となっており、認知症の方には介護保険が適用されます(介護認定がある場合)。
| 主傷病 | 適用保険 | 備考 |
| 統合失調症・双極性障害・うつ病など | 医療保険(精神科訪問看護) | 介護認定があっても医療保険 |
| 認知症(アルツハイマー型・血管性など) | 介護保険 | 精神科訪問看護の対象外 |
| 認知症+精神疾患の併存 | 主傷病を確認して判断 | 主治医に確認が必要 |
精神科訪問看護を医療保険で行うためには、精神科を標榜する医療機関の主治医による訪問看護指示書が必要です。また、精神科訪問看護を行うスタッフには、精神科勤務経験や研修修了等の要件があります。事務担当者は指示書の発行元が精神科であることを確認しましょう。
医療保険と介護保険で変わる請求先・回数制限・自己負担の違い
保険の適用が決まったら、次は請求の実務です。医療保険と介護保険では、請求先・訪問回数の上限・利用者の自己負担のすべてが異なります。
| 比較項目 | 医療保険 | 介護保険 |
| 請求先 | 社会保険診療報酬支払基金(支払基金) または国民健康保険団体連合会(国保連) | 国民健康保険団体連合会(国保連)のみ |
| 訪問回数の上限(原則) | 週3日まで | ケアプランの範囲内(回数上限なし) |
| 別表第7・別表第8・特別指示書期間 | 週4日以上可(難病等複数回訪問看護) | — |
| 自己負担割合 | 1〜3割(保険種別・年齢・所得による) | 1〜3割(所得段階による) |
| レセプト様式 | 訪問看護療養費明細書(医療保険用) | 介護給付費明細書(介護保険用) |
| 請求締め日 | 翌月10日まで(支払基金・国保連ともに) | 翌月10日まで |
請求先の確認方法
医療保険の請求先は、利用者が加入している健康保険の種別によって異なります。
- 協会けんぽ・組合健保・共済組合・後期高齢者医療:社会保険診療報酬支払基金(支払基金)へ請求
- 国民健康保険(国保):国民健康保険団体連合会(国保連)へ請求
介護保険はすべて国保連への請求です。利用者の保険証を受け入れ時に確認し、保険種別をシステムに正しく登録しておくことで、請求先の誤りを防げます。
POINT|同じ国保連でも医療と介護は別請求
国保加入者の場合、医療保険も介護保険もどちらも国保連への請求になりますが、様式・システム・提出先のコードが異なります。「どちらも国保連だから同じ」という思い込みは誤請求につながりますので注意してください。
保険区分を間違えたときの実務対応(返戻・過誤)
もし間違えて請求してしまったら、どうすればいいんでしょう……? 返戻と過誤の違いもよくわかっていなくて。
返戻は審査で差し戻されること、過誤は支払い済みのレセプトを取り下げて修正することです。どちらも期限があるので、気づいたら早めに対処するのが鉄則ですよ。
保険区分の誤りに気づいたタイミングによって、対応方法が変わります。大きく分けると「返戻(審査段階での差し戻し)」と「過誤(支払い済み後の取り下げ)」の2つです。
返戻(審査段階で戻ってきた場合)
審査機関(支払基金・国保連)が請求内容を審査し、誤りがあれば「返戻」として請求が差し戻されます。返戻通知が届いたら、理由コードを確認して内容を修正し、翌月の請求に再提出します。保険区分の誤りによる返戻の場合は、正しい保険でのレセプトを作り直す必要があります。
過誤(すでに入金されていた場合)
支払い済みのレセプトに誤りが発覚した場合は「過誤申立て」を行います。過誤申立てによって一度支払われた給付金が差し引かれ、修正後のレセプトで再請求します。介護保険の過誤は国保連、医療保険の過誤は支払基金または国保連が窓口です。
注意|過誤申立てには期限がある
過誤申立ての受付期限は各審査機関によって異なりますが、原則として5年以内とされています。ただし、実務上は早期に対応することが推奨されており、長期間放置すると調整処理が複雑になる場合があります。誤りに気づいたら、その月または翌月中に対応することを目安にしてください。
よくある質問(FAQ)
介護認定を受けている65歳の方が末期がんになりました。どちらの保険で請求しますか?
末期の悪性腫瘍は別表第7の疾病等に該当するため、介護認定を受けていても医療保険で請求します。要介護度や年齢に関わらず、別表第7の条件に該当した時点で医療保険が優先となります。訪問看護指示書の傷病名と主治医への確認を忘れずに行いましょう。
特別訪問看護指示書の期間が終わった翌日から、介護保険に自動的に戻りますか?
はい、特別訪問看護指示書の有効期間が終了した翌日から、介護保険(要介護・要支援認定がある場合)に戻ります。切り替えを意識して日付管理を行い、レセプト作成時に期間の区切りを間違えないよう注意してください。
40歳未満の利用者が精神科訪問看護を受ける場合、医療保険になりますか?
はい、40歳未満は介護保険の被保険者でないため、主傷病が精神疾患かどうかにかかわらず医療保険が適用されます。精神科訪問看護の医療保険適用は、介護認定者でも医療保険優先というルールとは別の軸で成立しており、40歳未満は自動的に医療保険です。
パーキンソン病の利用者がいるのですが、別表第7に該当するか主治医に確認するとき何を聞けばよいですか?
「ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ3以上で、生活機能障害度がⅡ度またはⅢ度に該当するか」を主治医に確認してください。この2つの条件を両方満たして初めて別表第7に該当し、医療保険が優先されます。確認内容は記録に残しておくと、審査での問い合わせにも対応しやすくなります。
同じ利用者に対して、同じ月に医療保険と介護保険の両方で訪問看護を請求できますか?
原則として同月内での医療・介護保険の併用はできませんが、特別訪問看護指示書の発行期間中は例外的に同じ月の中で2つの保険が使われる場合があります。指示書発行前の訪問分は介護保険、発行後の期間分は医療保険でそれぞれ別にレセプトを作成して請求します。
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まとめ|保険の優先判断は「原則+4つの例外」で迷わない
訪問看護における医療保険・介護保険の優先判断は、「介護認定あり=介護保険」という原則を押さえたうえで、4つの例外ケースを確実に覚えておくことがポイントです。新規利用者の受け入れ時には、必ず傷病名・指示書の内容・年齢・介護認定の有無を確認する習慣をつけましょう。
この記事のまとめ
- 訪問看護は「介護保険優先」が大原則。要介護・要支援認定がある場合は基本的に介護保険で請求する。
- 医療保険が優先になる4つのケース:①40歳未満など介護保険の対象外、②別表第7の疾病等(末期がん・ALS・人工呼吸器使用等20項目)、③特別訪問看護指示書の発行期間中、④精神科訪問看護(認知症を除く)。
- 別表第7のパーキンソン病は「ホーエン・ヤール分類ステージ3以上かつ生活機能障害度Ⅱ度またはⅢ度」という条件あり。必ず主治医に確認する。
- 特別訪問看護指示書が出た月は、介護保険と医療保険を日付で分けて2本のレセプトを作成する。
- 医療保険の請求先は保険種別により支払基金または国保連へ。介護保険はすべて国保連。
- 保険区分の誤りは、返戻なら修正再請求、支払い済みなら過誤申立てで対応する。
保険の判断を誤ると請求の差し戻しや過誤対応が発生し、事務作業の二度手間になります。受け入れ時のチェックフローを事業所内でルール化しておくことが、業務効率化への近道です。
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