- 「クレーム対応はどのような流れで進めればいいのだろう」
- 「どのように答えればトラブルを大きくせずに済むのだろう」
このような悩みを抱えている訪問看護ステーションの事務職員の方は多いのではないでしょうか。
クレーム対応は大変なイメージがありますが、正しい流れと適切な声かけを身につければ、決して怖いものではありません。
むしろ丁寧な対応により、相手との信頼関係をより深められるでしょう。
本記事では、訪問看護ステーションの事務職員が知っておくべきクレーム対応の流れと、現場ですぐに使える声かけの例について解説します。
目次
クレーム対応は流れが重要な理由
クレーム対応は流れが重要といわれており、その理由は以下のとおりです。
- 現場で対応がぶれると信頼を失うから
- 順序を守ることで相手の不安を和らげられるから
- 対応フローを共有することで組織全体の質が安定するから
それぞれ見ていきましょう。
現場で対応がぶれると信頼を失うから
職員ごとに対応のしかたや態度が異なると、「組織としていい加減な印象」を与えてしまいます。
たとえば、ある職員は丁寧に謝罪して改善策を提示した一方で、別の職員は言い訳がましい対応をしたとします。
このような違いがあると、「この事業所はスタッフによって対応がバラバラで信頼できない」と判断されかねません。
対応が不十分だった場合、不満が解消されずに再度クレームとなり、より大きなトラブルに発展するリスクもあります。
順序を守ることで相手の不安を和らげられるから
後述するクレーム対応の流れには、基本的な順序があります。
たとえば怒っている相手の感情を受け止める前にいきなり事実確認を始めたり、対応策を提示したりすると以下のような印象を与えかねません。
- 「話を聞いてくれない」
- 「こちらの気持ちをわかってくれない」
一方で正しい順序で対応すれば、相手の感情を自然にクールダウンさせる効果があります。
まず相手の気持ちに共感し、次に何が起こったのかを丁寧に聞き取り、最後に具体的な解決策を提示する、というステップを踏みましょう。
対応フローを共有することで組織全体の質が安定するから
明確な対応フローがあると、経験の浅い職員でも一定の質を保った対応が可能です。
管理者や他の職員への報告・連携もスムーズになり、情報の抜け漏れや伝達ミスも防げます。
組織全体で対応を統一すれば、サービスの質が安定し、相手からの信頼も維持されやすくなります。
訪問看護のクレーム対応の流れ
クレーム対応の流れは、次の5つのステップから成り立っています。
- 受け止める
- 事実を確認する
- その場で対応する
- 責任者に引き継ぐ
- 最終対応を行う
それぞれについて見ていきましょう。
1.受け止める
クレーム相手は感情的になっていることが多いため、まずは受け止めることが重要です。
話を聞く際は、相手のことばを途中でさえぎったり反論したりせずに、最後まで耳を傾けましょう。
- 「大変でしたね」
- 「ご心配をおかけし申し訳ありません」
といった共感することばを適度に挟みながら、相手の話をメモにとることも重要です。
メモは、後の事実確認や報告の際に正確な情報を伝えられ、相手へ「真剣に話を聞いている」という姿勢も示せます。
ただし、メモをとるのに夢中で話を聞いていないと思われないように、相手と目線を合わせることも忘れないようにしましょう。
2.事実を確認する
相手の感情を受け止めた後は、具体的な事実を確認します。
ここでは「5W1H」を意識して、氏名、発生日時、関与したスタッフ、具体的に何が起こったのかなどを正確に聞き取りましょう。
ただし、この段階では推測や憶測で判断せず、「詳しい状況を確認いたします」「関係者に確認してご連絡いたします」といった預かる姿勢をとることが大切です。
また、事実確認の際は相手を責めるような質問のしかたは避け、状況を正しく把握するための質問であることを理解してもらいましょう。
「なぜそうなったのですか?」
ではなく、以下のように聞きます。
「どのような状況だったのか教えていただけますか?」
このように聞くことで、相手の感情を逆なでせずに情報を収集できます。
3.その場で対応する
事実確認ができた後は、その場で対応可能な事項については即座に対応します。
たとえば連絡の伝達漏れや入力ミスなど、明らかに事業所側の不注意によるものであれば、素直に謝罪し、すぐに修正対応を行いましょう。
ただし、サービス内容の変更や職員の交代など、管理者や看護師の判断が必要な事項については、無理にその場で回答せず上長に確認しましょう。
「私の判断では決めかねますので、責任者に確認してご連絡いたします」
このように伝え、適切に判断できる者につないでから解決策を提示します。
4.責任者に引き継ぐ
管理者や看護師の判断が必要な事項は、速やかに責任者へ共有し、対応方針を決めます。
引き継ぎの際は、これまでの経緯を要約して伝えるとともに、利用者さんやご家族の感情面についても併せて伝えましょう。
たとえば「○○さんは非常に心配されており、信頼関係の修復を重視した対応が必要と思われます」といった情報も含めることで、責任者がより適切に判断できます。
5.最終対応を行う
最後に、謝罪・説明・改善策の提示を組み合わせて、相手の納得を得られるように努めます。
謝罪の際は、具体的に何について謝罪するのかを明確にし、形式的ではない心のこもったことばで伝えましょう。
今回の問題が発生した理由をわかりやすく説明し、再発防止策を提示します。
対応後は必ず記録を残し、関係者間で情報を共有しましょう。
再発防止策はチーム全体で検討し、必要に応じて業務フローの見直しや研修などにより、組織全体のサービス向上につなげることが大切です。
クレーム対応の各ステップで使える声かけや対応例
クレーム対応では適切な声かけが大切です。
ここでは、実際に使える具体的なフレーズと、感情的にならずに対応するポイントを解説します。
- 「お話を聞かせてください」と伝えて傾聴する
- 相手の感情を逆なでしない聞き方・伝え方を心がける
- 「確認して折り返します」と一旦区切って安心させる
- 看護師・事務・管理者が連携して対応を統一する
それぞれ見ていきましょう。
「お話を聞かせてください」と伝える
クレーム対応の冒頭では、相手に安心感を与える定番のフレーズが効果的です。
「この度はご心配・ご迷惑をおかけして申し訳ございません。どのような状況だったのか、詳しくお話を聞かせていただけますでしょうか」
このように声かけすれば、相手に「きちんと話を聞いてもらえる」と安心感を与えられます。
話を聞く際は、「はい」「そうですね」「大変でしたね」といった相づちをうち、話しやすい雰囲気をつくりましょう。
また、「お気持ちはよくわかります」「そのような状況でしたら、ご不安になるのも当然です」といった共感のことばを使い、相手の感情を受け止めていることを示しましょう。
ただし、過度な相づちや単純なオウム返しを繰り返すと、かえって相手を不快にさせてしまうため、タイミングが重要です。
相手の感情を逆なでしない聞き方・伝え方を心がける
クレーム対応では、ことば選びと話し方が相手の感情を左右します。
否定的、言い訳がましいことばは避け、常に穏やかで丁寧なトーンで話しましょう。
「それは違います」「でも」「しかし」
「恐れ入りますが~」「申し訳ございませんが、状況を正しく把握させていただくために~」
このようなクッションことばが有効です。
また、ことばだけでなく、表情や姿勢などの非言語コミュニケーションも活用します。
電話対応では表情が見えませんが、声のトーンや話すスピードで印象を変えられるため、落ち着いた口調を心がけましょう。
対面では適度にアイコンタクトし、前のめりになりすぎず、かといって距離をとりすぎないように話しやすい距離感を保ちます。
「確認して折り返します」と一旦区切って安心させる
その場で回答できない質問や、判断が必要な事項については、無理に答えようとせず誠実に預かる姿勢を示しましょう。
「申し訳ございませんが、正確にお答えするために関係者に確認いたします。〇時までにお電話にてご連絡させていただきますが、よろしいでしょうか」
と具体的な時間を示し、相手に安心感を与えます。
また、「確認いたします」と伝える際は、何を確認するのかを明確にしましょう。
- 「担当看護師に当日の状況を確認いたします」
- 「管理者と今後の対応について検討いたします」
といったように、具体的に何をするのか説明し、相手に「きちんと対応してもらえる」といった印象を与えるのが大切です。
看護師・事務・管理者が連携して対応を統一する
クレーム対応では、関係者間での情報共有と対応の統一が重要です。
事務職員から看護師や管理者に情報を共有する際は、事実関係だけでなく、利用者さんやご家族の感情的な背景についても併せて伝えましょう。
「利用者さんは今回の件で非常に不安を感じておられ、『今後も安心してサービスを利用できるのか』と心配されています」といった情報を共有します。
もし複数の職員が関わる場合は、窓口を一本化し、発言の食い違いが生じないようにしましょう。
対応後は、今回の経験を組織全体の学びとして共有し、同様のトラブルの再発防止に努めることが重要です。
クレーム対応の流れを現場に定着させるコツ
クレーム対応のフローを作成しただけでは、現場での実践にはつながりません。
効果的に定着させるコツは、以下の3つです。
- 対応フローを現場目線で書き直して共有する
- OJTやロールプレイで現場対応を体得させる
- 日々の申し送り・ミーティングで温度差を埋める
それぞれ見ていきましょう。
対応フローを現場目線で書き直して共有する
作成したフローは、理論的すぎて現場で使いにくいことがあります。
そのため、実際にクレーム対応を行う事務職員の視点で、より実践的な手順書に書き直すことが重要です。
専門用語や抽象的な表現は避け、「この場合はこう言う」「この場合はこう対応する」といった具体的な行動レベルまで落とし込みましょう。
さらに、過去に発生したクレーム事例をもとにした対応例を含めることで、よりリアルで使いやすい手順書が作れます。
OJTやロールプレイで現場対応を体得させる
クレーム対応は実際に体験しないと身につかないスキルです。
そのため、過去のクレーム事例をもとにしたロールプレイを定期的に実施し、実践感覚を磨きましょう。
ロールプレイでは、一人が相手役、もう一人が事務職員役になり、実際の場面を想定してやりとりします。
- 「相手が感情的になった場合はどう対応するか」
- 「予想外の質問をされた時はどう答えるか」
このように場面を設定して行うとよいでしょう。
日々の申し送り・ミーティングで温度差を埋める
クレーム対応に関する情報共有を日常的に行えば、組織全体の対応レベルが向上します。
ただし、クレームが発生した際は当事者を責めるのはやめましょう。
責任追及ではなく、「今回の経験から何を学び、どう改善するか」という建設的な視点で話し合います。
クレーム事例の共有だけでなく、「今月はこのような対応で利用者さんに喜んでもらえた」といった良い事例の共有も積極的に行うと、職員のモチベーションも向上するでしょう。
まとめ
訪問看護のクレーム対応の流れは、「正しい順序」と「適切な声かけ」が大切です。
特に事務職員は初動対応を担うケースが多く、5つのステップと各段階で使える具体的なフレーズの両方を習得しておきましょう。
組織全体でフローを共有し、研修や事例検討を通じて対応力を向上させ、同様のトラブルの再発を防ぐ仕組みの構築が求められます。
クレーム対応は決して恐れるものではなく、適切に対応して信頼関係をより深める機会ととらえましょう。
クレーム対応の基礎知識については、別記事「訪問看護のクレーム対応とは?事務員が知っておきたいポイントを解説!」で詳しく解説しています。
ビジケア訪問看護事務マガジン
訪問看護のクレーム対応とは?事務員が知っておきたいポイントを解説! | ビジケア訪問看護事務マガジン
「訪問看護の事務員として、クレーム対応にどう向き合えばいいのだろう?」 「適切な対応方法がわからず、いつも不安だ」 訪問看護ステーションの事務員は、利用者さんやご…