「そんな説明は聞いていません」「いいえ、確かにお伝えしました」――利用者やご家族との間で、こうした「言った言わない」の水掛け論になった経験はありませんか。訪問看護の事務職員は、電話対応の最前線でこうしたクレームを一手に引き受けることが多く、どう対応すればいいのか分からず疲弊してしまう方も少なくありません。
この記事では、「言った言わない」トラブルが起きる原因から、実際に起きてしまったときの5ステップの対処法、そのまま使えるフレーズ集、そして未然に防ぐための仕組みづくりまで、事務職員がすぐに実践できる形で解説します。
この記事でわかること
- 「言った言わない」トラブルが起きる心理的・構造的な原因
- 実際に水掛け論になったときの5ステップの対処法
- クッション言葉・共感フレーズ・お断りの定型句など、そのまま使えるフレーズ集
- 「言った言わない」を未然に防ぐための5つの仕組み
目次
「言った言わない」トラブルが起きる原因
まずは、なぜ「言った言わない」が起きてしまうのか、原因を整理しておきましょう。
私はちゃんと説明したつもりなのに、「聞いていない」と言われることがあります……。私の説明の仕方が悪いんでしょうか?
必ずしもあなたのせいとは限りませんよ。人には「確証バイアス」という心理作用があって、自分の期待に合う情報だけを無意識に強く記憶してしまうんです。例えば「条件によっては安くなる」という説明でも、「安くなる」の部分だけが記憶に残ってしまう、というようなことですね。
双方が「自分の記憶こそ正しい」と本気で信じているケースがほとんどのため、相手を嘘つき呼ばわりするような対応は逆効果になります。加えて、口頭対応が中心の現場では、メモを残していない・復唱確認をしていないといった客観的な記録の欠如が、トラブルを泥沼化させる大きな原因になっています。
さらに、クレームの相手が頑なに「言った」と主張する背景には、「事実認定してほしい」というより「自分の立場を理解してほしい」という心理的な欲求が潜んでいることも少なくありません。特に医療・介護の現場では、不安を抱える利用者やご家族が、説明不足で軽んじられたと感じたときに、その不満が「言った言わない」という強い主張に転換されることがあります。
「言った言わない」となった場合の対処法【5ステップ】
実際に水掛け論になってしまった場合の対処法を、5つのステップで整理します。
- ステップ1:部分謝罪する事実関係を争う前に、まず「不快な思いをさせたこと」「説明が伝わりにくかったこと」についてのみ謝罪します。「私の説明が至らず、誤解を招いてしまい申し訳ありません」のように、事実そのものには触れず、相手の感情をクールダウンさせることが目的です。
- ステップ2:「認識のズレ」として扱う相手の「言った!」という主張を真っ向から否定せず、「〇〇様は□□と受け取られたのですね」と一度受け止めてから、自分の認識との違いを伝えます。目的は勝ち負けを決めることではなく、「認識が異なっていた」という着地点を作ることです。
- ステップ3:未来の話へ転換する過去の水掛け論はいくら続けても答えが出ません。「今後の対応についてご相談させていただけないでしょうか?」と話題を切り替え、原因追及から未来の解決へ焦点を移します。
- ステップ4:譲歩案(代替案)を提示する組織側のミスが確定できない場合でも、全ての要求を受け入れる必要はありません。「当初のご要望通りにはできませんが、〇〇という形であれば対応可能です」と、現実的な代替案を示して着地点を探ります。
- ステップ5:毅然とした態度で打ち切る誠意ある対応をしても理不尽な要求が続く場合は、「これ以上の対応はいたしかねます」と明確に線を引きます。スタッフを守り、組織としての一貫した対応を保つためにも必要な対応です。
「言った言わない」の局面を切り抜けるフレーズ集
咄嗟に言葉が出てこないときのために、場面別のフレーズをまとめました。
| 場面 | フレーズ例 |
| クッション言葉 | 「私の記憶の限りではございますが」「私の認識不足で申し訳ありませんが」「〇〇様のおっしゃる通りに受け取られてしまったとしたら、私の説明不足でございます」 |
| 共感フレーズ(謝罪ではない) | 「そのようなお気持ちにさせてしまい、心苦しく思います」「ご期待に添えず、残念なお気持ちは重々承知しております」「ご不便をおかけしてしまい、大変恐縮です」 |
| 話題転換フレーズ | 「〇〇様にとって良い解決になるように、今後のことをお話しさせていただけないでしょうか?」「事実確認が難しい状況ですので、今私たちができる最善のご提案をさせてください」 |
| お断りの定型句 | 「そのご要望にはお応えいたしかねます」「組織としての決定ですので、これ以上申し上げられることはございません」「恐れ入りますが、このままのお話が続くようであれば、電話を切らせていただきます」 |
POINT
フレーズはあくまで型です。棒読みにならないよう、相手のトーンに合わせて語尾や間の取り方を調整しましょう。
「言った言わない」を未然に防ぐ5つの方法
対処法は分かったのですが、そもそもトラブルにならないように防ぐ方法はないんでしょうか……?
ありますよ。ポイントは「記録を残す」仕組みを事前に整えておくことです。順番に見ていきましょう。
- 復唱確認と認識合わせを徹底する「〇〇ということでよろしいですね?」という復唱確認や、電話終了時の「本日の決定事項」の要約を習慣にし、相手の記憶に正確な情報を定着させます
- 通話録音システムを導入する記録の客観性を確保できるだけでなく、「通話は録音されています」という案内自体に、過度な要求を抑止する効果も期待できます
- 電話の後にメール・書面で記録を残す口頭のみのやり取りが危険性の源になるため、「先ほどのお電話の内容をまとめました」とメールを送り、文字情報として証拠を残します
- 重要事項説明書や契約書を読み合わせる配布するだけでなく、重要箇所をマーカーで示しながら一緒に読み上げ、同意を確認したうえで「〇月〇日、〇〇について説明し同意を得た」と記録に残します
- 顧客管理システムに詳細を記録する連絡先や病状だけでなく、やり取りの経緯や相手の感情・こだわりの内容・不機嫌になったテーマなども記録し、誰が対応しても安全な体制を組織全体で共有します
記録を残すことが、あなたと組織を守る理由
ここまで紹介した対処法・防止策に共通しているのは、「記録」が最大の武器になるという点です。「言った言わない」は、突き詰めれば水掛け論であり、どちらの記憶が正しいかを裁くことはできません。だからこそ、客観的な記録があるかどうかが、事務職員一人ひとりを守り、組織としての対応の一貫性を保つ分かれ目になります。
注意
記録は「トラブルが起きてから」ではなく「起きる前」に整えておくことが重要です。復唱確認・書面での記録・重要事項説明書の読み合わせは、特別なことではなく、日々の業務フローの中に組み込んでおきましょう。
クレーム対応「言った言わない」のQ&A
クレームの相手が「言った」と強く主張してきた場合、まず何をすればよいですか?
事実関係を争う前に、まず「不快な思いをさせたこと」「説明が伝わりにくかったこと」について部分謝罪をします。全面的な非を認めるわけではなく、感情面への配慮を示すことで、相手の興奮を落ち着かせることができます。
通話録音は本当に効果がありますか?
記録の客観性を確保できるだけでなく、「通話は録音されています」という案内自体に、過度な要求を抑止する効果が期待できます。導入・運用コストはかかりますが、トラブル対応にかかる人件費やスタッフの精神的負担を考えると、投資効果は高いといえます。
重要事項説明書の読み合わせは、どこまで丁寧にやるべきですか?
配布するだけでなく、重要な箇所をマーカーで示しながら一緒に読み上げ、利用者・家族に同意を確認してもらうことが望ましいです。「〇月〇日、〇〇について説明し同意を得た」と記録に残しておくことで、後日のトラブル防止につながります。
どうしても平行線が続く場合、いつ会話を打ち切ってよいですか?
誠意をもって対応しても理不尽な要求が続く場合は、「これ以上の対応はいたしかねます」と明確に線を引いてかまいません。スタッフを守り、組織としての一貫した対応を保つためにも、毅然とした対応は必要です。
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まとめ|「言った言わない」は記録で防ぎ、フレーズで乗り切る
「言った言わない」のトラブルは、過去を掘り返しても解決しません。実際に起きてしまったら、部分謝罪→認識のズレとして受け止める→未来の話へ転換→譲歩案の提示→毅然とした打ち切り、という5ステップで対応しましょう。そして何より大切なのは、トラブルが起きる前から「記録」の仕組みを整えておくことです。
この記事のまとめ
- 「言った言わない」は確証バイアスと記録の欠如が主な原因
- 実際に起きたら5ステップ(部分謝罪・認識のズレ・未来への転換・譲歩案・毅然とした打ち切り)で対応する
- クッション言葉・共感フレーズ・お断りの定型句を用意しておくと咄嗟の対応がしやすい
- 復唱確認・通話録音・書面記録・重要事項説明書の読み合わせ・顧客管理システムへの記録で未然に防ぐ
「記録を残す」仕組みを今日から整えて、あなた自身と組織を水掛け論から守りましょう。
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