- 「訪問看護でのクレーム事例を知りたい」
- 「同じようなトラブルの対応や予防策を知りたい」
このような悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
クレームの対処法や予防策を講じるためには、実際に起きた事例から学ぶことが大切です。
本記事では、訪問看護の現場で実際に起きたクレーム事例をもとに、効果的な対処法と予防策を詳しく解説します。
訪問看護の事務職員として、クレーム対応の最初の窓口になることは多々あります。
さまざまな事例を知り、教訓とすることでより印象のよいステーションにしていきましょう。
目次
訪問看護のクレーム対応を事例から学ぶべき理由
訪問看護のクレーム対応では、事例から学ぶことが大切です。
理由は以下のとおりです。
- 実際の事例は抽象的なルールよりも印象に残るから
- 過去の例が参考になるから
それぞれについて、みていきましょう。
実際の事例は抽象的なルールよりも印象に残るから
マニュアルに書かれた「利用者さんにはていねいに対応しましょう」という内容よりも、「○○さんのケースで、こんな対応をしたらクレームになった」という具体的な事例の方が記憶に残ります。
人間の脳は具体的なエピソードを覚えやすく作られているため、事例を通じて学んだ内容は日常業務でも思い出しやすくなるのです。
過去の例が参考になるから
訪問看護の現場では、「この場合はどう対応すればよいのか?」と判断に迷う場面が多々あります。
過去の事例を知っていれば「前回の○○さんのケースと似ているから、こう対応してみよう」と具体的な判断基準をもてるようになります。
経験豊富な先輩職員が頼りになるのも、多くの事例を知っているからなのです。
訪問看護のクレーム事例
ここからは、訪問看護の現場で起きたクレーム事例を具体的に紹介します。
どのような状況でトラブルが発生し、利用者さんがどのような気持ちになったのかを詳しくみていきましょう。
訪問時間が守られず利用者さんが不安になってしまった
ある日、看護師が訪問予定時刻に10分遅れてしまいました。原因は道路の渋滞でしたが、事前に連絡を入れることなく訪問したため、利用者さんは「今日は来ないのかと思って不安になった」と訴えたのです。予定時刻を過ぎても看護師が来ないことで、利用者さんは以下のような不安を感じていました。
- 「何かトラブルがあったのではないか」
- 「自分のことを忘れられているのではないか」
- 「もし今体調が悪化したらどうしよう」
看護師としては、たった10分の遅れであれば連絡の必要はないと考えていました。
しかし、利用者さんにとっては予定通りに来ないことへの不安は想像以上に大きかったのです。
この事例からわかるのは、時間の感覚が職員と利用者さんで大きく異なることです。
職員にとっては「たった10分」でも、利用者さんにとっては「とても長い10分」になっていることがわかります。
「説明された内容と違う」と言われた
契約時に「週2回の訪問で、血圧測定と服薬管理を行います」と説明していたにもかかわらず、実際のサービス開始後に「思っていた内容と違う」とのクレームが発生しました。
この事例では、サービス内容の説明が抽象的すぎたことが問題でした。
「血圧測定」「服薬管理」ということばだけでは、具体的に何をどこまで行うのかが伝わっていなかったのです。
たとえば、服薬管理について以下のような詳細が伝わっていませんでした。
- 薬の仕分けは家族が行う
- 看護師は服薬の確認と記録のみ行う
家族は「薬の管理を全て看護師がやってくれる」と思い込んでいたため、実際のサービス内容を知って「話が違う」と感じてしまいました。
このような認識のズレは、信頼関係の悪化にもつながりかねません。
看護師の口調が冷たく感じられた
看護師は、ていねいに病状の説明や指導をしたつもりでしたが、利用者さんから「もう少し柔らかい話し方をしてもらえませんか」と指摘されてしまいました。専門職としてていねいに話していたつもりが、相手には「冷たい印象」に映ったのです。看護師は正確な情報を伝えようと、医学用語を使いながら論理的に説明していました。
しかし、利用者さんには以下のような印象を与えてしまっていたのです。
- 機械的で温かみが感じられない
- 上から目線で話されているように感じる
- 自分の気持ちを理解してもらえていないのではないか
この事例では、専門性と親しみやすさのバランスがとれていなかったことが問題でした。
正確な情報伝達も大切ですが、相手の気持ちに寄り添った話し方も同じように重要なのです。
請求書の金額に家族が困惑した
サービス提供回数の増加や新たな加算項目の追加により、請求金額が前月より大幅に上がったケースです。請求書を見た家族が「なぜこんなに高くなったのか」と困惑し、不信感を抱くことになりました。家族への事前説明が不十分だったため「勝手に金額を上げられた」という印象を与えてしまったのです。
金銭に関わる問題は特に慎重に対応する必要があり、信頼関係に大きな影響を与える可能性があります。
前月までと対応が変わる場合、料金が高くなる可能性があることを事前に伝えておいた方がよい事例です。
事例から読み取る対処と予防のポイント
これまで紹介した事例をもとに、クレームの対処と予防のポイントをみていきましょう。
「10分の遅れ」でも必ず連絡する
たとえ短時間でも、連絡があるかどうかで信頼感は大きく変わります。
訪問時間に遅れる場合は、たとえ10分程度の短時間であっても必ず連絡を入れることが重要です。
連絡をするだけで、利用者さんは以下のような安心感を得られます。
- 自分のことをしっかりと覚えてくれている
- 看護師がきちんと責任をもって対応してくれている
- 遅れる理由がわかることで納得できる
具体的には訪問予定時刻の10分前までには電話で連絡し、「道路が混雑しており10分ほど遅れる予定です。申し訳ございません」と簡潔に伝えるとよいでしょう。
利用者さん宅の連絡先がわからない場合、事業所へ連絡して事務職員に依頼するのもひとつです。
初回説明時に「できること・できないこと」を明確にする
サービス契約時には具体的でわかりやすい説明を心がけ、できることとできないことをはっきりとさせましょう。
特に以下の点については、詳細に説明する必要があります。
- サービス提供時間(到着時刻と所要時間)
- 具体的なケア内容(何をするか、何をしないか)
- 緊急時の対応方法と連絡先
- 家族の役割分担
- 費用に関する詳細(基本料金、加算項目、変更時の連絡方法)
たとえば「服薬管理」について説明する場合は、以下のように説明しましょう。
「お薬の飲み忘れがないように声をかけ、服薬状況を確認します。お薬の仕分けやセッティングは、利用者さんの状況やご家族の協力体制によって検討しましょう。」
このように、対応するのが看護師になるのか、利用者さんやご家族なのかは、状況によって変わることもあると具体的に伝えましょう。
「声のトーン・表情」も接遇の一部と捉える
専門的な知識を正確に伝えることは大切ですが、相手の気持ちに配慮した話し方も同じように重要です。
以下の点に注意して、温かみのあるコミュニケーションを心がけましょう。
- 相手の目を見て話す
- 適度な間を取りながらゆっくりと話す
- 専門用語を使う場合はわかりやすいことばで補足説明を加える
- 相手の理解度を確認しながら進める
- 「いかがですか?」「何かご不明な点はございませんか?」などの気遣いのことばを入れる
請求変更時は必ず事前に共有しておく
請求金額に変更が生じる場合は、以下の手順で事前に説明しましょう。
- 変更の理由と必要性を説明する
- 具体的な金額の変化を示す
- いつから適用されるかを明確にする
- 説明内容を記録に残す
たとえば、「医師の指示により訪問の回数が増えることになりました。これにより月額○○円程度の増額となる可能性があります。」
というように、わかりやすく説明しましょう。
金銭に関わる事項は特に慎重な対応が必要です。
後からトラブルにならないように、説明した記録を残しておくことをおすすめします。
クレーム事例をチームで活かすコツ
個人の経験だけでなく、チーム全体でクレーム事例を共有し、組織的な改善につなげましょう。
ここでは、効果的な事例共有の方法について解説します。
事例は責めるのではなく共有するものと認識する
クレーム事例を共有する際は、「誰が悪かったか」を追求するのではなく、「なぜ起きたのか」「どうすれば防げるか」に焦点を当てましょう。
責任追及の場にしてしまうと、職員が事例を隠すようになり、組織全体の学習機会が失われてしまいます。
事例を効果的に共有する方法として、以下の取り組みが有効です。
- 月1回のケース検討会で事例を取り上げる
- 簡潔なクレーム報告書のフォーマットを作成する
- 類似事例の予防策をチームで話し合う
マニュアルに落とし込んで仕組みに変える
繰り返し発生するクレームパターンについては、標準的な対応方法をマニュアル化するとよいでしょう。
たとえば、訪問時間の遅れについては以下の対応フローが有効です。
- 遅れることがわかった時点で即座に連絡する
- 遅れる理由と到着予定時刻を伝える
- 利用者さんの都合を確認し、必要に応じて訪問時刻を調整する
- 到着時に改めておわびする
- 事務所に報告し、再発防止策を検討する
マニュアルは一度作って終わりではなく、新たな事例や制度変更に応じて定期的に更新することも重要です。
更新履歴を残すことで、どのような改善が行われてきたかも把握できます。
もしクレーム対応をする場合は、例文を押さえておくのも有効です。
詳細は「訪問看護のクレーム対応例文を紹介!場面別の伝え方とポイントも」を参考にしてください。
ビジケア訪問看護事務マガジン
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朝礼やミーティングなどで話題にする
クレーム事例の共有を特別なイベントとして位置づけるのではなく、日常的な業務の一部として定着させましょう。
朝礼や定期ミーティングの際に、「今週の気づき」「今月の学び」として事例を取り上げる習慣をつけるのが効果的です。
クレームを「悪いこと」として捉えるのではなく、「サービス向上の教訓」として前向きに活用する文化を育てましょう。
- クレームは利用者さんの貴重な声として捉える
- 早期発見できてよかったという視点をもつ
- チーム全体で成長できる機会と認識する
- 改善策の実施後は成果を共有し、達成感を味わう
このような文化が根付くことで、職員が積極的に改善提案を行い、組織全体のサービス品質向上につながります。
まとめ
訪問看護の現場で発生するクレーム事例は、決してネガティブな出来事ではありません。
利用者さんの声を聞き、サービスを改善するための貴重な情報源として活用すれば、より質の高いケアを提供できるようになります。
個別の事例対応だけでなく、複数の事例から共通のパターンを見つけ出し、組織的な改善につなげることが重要です。
クレーム対応は個人の責任ではなく、チーム全体で取り組むべき課題です。
事例共有の文化を育て、みんなで学び合う環境を整えることで、利用者さんにとってよりよいサービスを提供できる組織へと成長していけるでしょう。
訪問看護のクレーム対応に役立つ基本的な知識を知りたい方は「訪問看護のクレーム対応とは?事務員が知っておきたいポイントを解説!」の記事も参考にしてください。
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