- 「部下への接遇教育って難しい」
 
- 「接遇のコツってあるのだろうか」
 
  
部下の接遇教育に悩んでいませんか?
接遇には5原則があり、身に着けておくと質の高いケアを提供できたり、利用者さんの満足度・事業所の評価が向上したりといったメリットがあります。
今回は、看護における接遇5原則の定義と、訪問看護の現場で明日から使える方法を解説します。
訪問看護ステーションの管理者は、部下の接遇教育にぜひ活かしてください。
目次
看護に接遇5原則が重要な理由
スタッフの接遇スキルは、サービスの質を担保するうえで欠かせません。
ここでは、利用者さんの満足度、医療安全、そしてスタッフ自身の保護の3つの観点から、その重要性を解説します。
1.利用者さんの満足度の向上と事業所の評価に直結するから
質の高い接遇は、利用者さんの満足度に直結し、ステーションの評価を高めることにつながります。
利用者さんやご家族は、看護技術だけでなく、スタッフ一人ひとりの対応を非常に重視しています。
丁寧で心温まる接遇は、「このステーションを選んで良かった」という安心感と満足感を与えるでしょう。
たとえば、言葉遣い一つで不安が和らいだり、親身な態度に救われたりすることは少なくありません。
一方で、高い技術を持ち合わせていても、態度が悪ければ不満に思われてしまうでしょう。
良い対応により評判が口コミで広がると、地域のケアマネジャーからの信頼獲得や新規利用者の増加にもつながり、ステーション経営の安定化につながります。
優れた接遇は、効果的な広報活動の一つだと言えます。
2.信頼関係が医療安全(インシデント防止)につながるから
接遇を通じて築かれる信頼関係は、医療事故を防ぐためにも重要です。
看護師が丁寧な態度で傾聴することで、利用者さんは安心して自身の体調の変化や不安な気持ちを話せるようになります。
たとえば、「いつもと少し違う」という利用者さんのささいな訴えを真摯に受け止める姿勢が、重大な変化を早期発見するケースは少なくありません。
しかし態度の悪いスタッフに対しては、利用者さんも「言っても無駄だ」と感じ、重要な情報を伝えそびれてしまう可能性があります。
接遇はコミュニケーションの質を高め、結果的に医療安全を確保するうえで不可欠です。
3.看護師自身をクレームや疲弊から守るから
適切な接遇スキルをもっていれば、スタッフ自身を不要なトラブルや精神的な疲弊から守れます。
丁寧で誠実な対応を心がけていれば、万が一ミスが発生した場合でも、感情的なクレームに発展しにくくなるからです。
普段から良好な関係が築けていることで、利用者さんも状況を理解しようと努めてくれることでしょう。
接遇スキルを磨くことで、大切なスタッフが安心して働き続けることができます。
看護における接遇5原則の定義
ここからは、「表情」「挨拶」「身だしなみ」「言葉遣い」「態度」の5つの原則について、看護の現場における意味と重要性を解説します。
①表情
表情は利用者さんの不安を和らげ、安心感を与えるために重要な非言語的コミュニケーションです。
特に初対面の方には、穏やかで口角の上がった表情で接することで第一印象を良くします。
マスクを着用する方が多い現在では、目元の表情(アイコンタクトや優しい眼差し)と、マスク越しでも温かみが伝わる声のトーンがより一層重要です。
指導の際は、単に「笑顔で」と伝えるだけでなく、「相手の目を見て、少しだけ口角を上げる意識をしよう」と具体的に教えましょう。
②挨拶
看護の現場では、良好な人間関係を築き、円滑なケアを提供するために最低限必要な行為と言えます。
といった基本的な挨拶に、相手の名前や「〇〇さん、昨夜は良く眠れましたか?」などの一言を添えるだけで、相手への関心を示し、心の距離を縮められます。
挨拶は利用者さんだけでなく、ご家族や連携する多職種のスタッフに対しても同様に重要です。
ステーション全体の明るい雰囲気を作る基本だと指導しましょう。
③身だしなみ
看護における身だしなみは、「清潔感」「機能性」「安全性」の3つの要素を満たし、専門職としての信頼性を視覚的に示すものです。
- シワのない清潔なユニフォーム
 
- まとめられた髪
 
- 適切な長さの爪
 
  
こういった最低限の身だしなみはチェックするように伝えましょう。
また、香りの強い香水や華美なアクセサリーは、相手の体調に影響を与えたり、ケアの妨げになったりする可能性があるため避けます。
プロとしての自覚を促す、最も基本的な自己管理であると伝えてください。
④言葉遣い
利用者さんの尊厳を守り、専門的な内容をわかりやすく伝えるために重要です。
丁寧語や尊敬語を基本とし、馴れ馴れしい言葉遣いや専門用語の多用は避けましょう。
「血圧を測りますね」⇒「血圧を測らせていただいてもよろしいでしょうか」
  
このように、許可を求める形にするだけで相手への敬意が伝わります。
また、専門用語は「褥瘡(じょくそう)」を「床ずれ」と言い換えるなど、相手の理解度に合わせた配慮をしましょう。
⑤態度
言葉以上に「相手を尊重し、真摯に向き合っている」というメッセージを伝えられる要素です。
- 利用者さんの話を遮らずに最後まで聴く「傾聴」の姿勢
 
- 忙しくても落ち着いた動作
 
- 物品の丁寧な扱い
 
  
などが挙げられます。
腕組みやポケットに手を入れるといった行動は、相手に威圧感や不信感を与えてしまうことがあるため意識的に避けましょう。
看護の現場で活かせる接遇5原則のポイント
ここからは、訪問看護における接遇の5原則を現場で実践するポイントを解説します。
具体的な場面を想定した「OK例」と「NG例」を対比させながら、みていきましょう。
①表情:マスク着用時でも「アイコンタクト」と「声のトーン」を工夫する
マスクで口元が隠れていても、表情は十分に伝えられます。
重要なのは「目元」と「声」で感情を表現することです。
- 利用者さんの目を見て、少しだけ目尻を下げるように微笑み、普段よりワントーン明るく、ゆっくりとした口調で話しかける
 
- 「〇〇さん、こんにちは」と名前を呼んでから話し始める
 
  
- カルテや手元を見ながら話す
 
- 早口でぼそぼそと話す
 
- 目が笑っておらず、無表情に見える
 
  
指導のポイントは、スタッフ同士で表情や声のトーンについて率直な意見を言い合う研修会を行うことです。
②挨拶:状況に応じた使い分けを意識する
挨拶はただ行うだけでなく、状況に応じた言葉を選ぶことで信頼関係を深めます。
マニュアル通りの挨拶に、相手を気遣う一言を加えると良いでしょう。
- 「おはようございます。昨夜は良く眠れましたか?」
 
- 「お邪魔いたします。本日は〇〇のケアに伺いました」
 
- 「お大事になさってください。何かあればいつでもご連絡くださいね」
 
  
- 無言で部屋に入る
 
- 「どうも」など曖昧な挨拶で済ませる
 
- ケアが終わったら、そそくさと退室する
 
  
場面に応じた挨拶のレパートリーを複数用意し、ロールプレイングで練習させることで、自然なコミュニケーションが身につきます。
③身だしなみ:清潔感と安全性を両立させる
利用者さんのお宅に行く前に、以下の項目をチェックしてもらいましょう。
- ユニフォームにシワや汚れはないか?
 
- 髪はきちんとまとめているか?(長い髪はケアの邪魔にならないように)
 
- 爪は短く切り、清潔か?(マニキュアは原則NG)
 
- 華美なアクセサリーは身につけていないか?
 
- 靴は清潔で、脱ぎ履きしやすいか?
 
- 香水や匂いの強い柔軟剤を使用していないか?
 
- 名札は見やすい位置につけているか?
 
  
④言葉遣い:相手の不安を和げる「クッション言葉」と「言い換え」を活用する
言葉遣い一つで、依頼や指示が柔らかく、受け入れやすいものに変わります。
特に有効なのが「クッション言葉」と「肯定的な言い換え」です。
クッション言葉の例
「血圧測ります」
「恐れ入りますが、お血圧を測ってもよろしいでしょうか」
肯定的な言い換えの例
「〇〇しないでください」
「〇〇していただけると、より安全ですのでお願いいたします」
⑤態度:忙しいときでも丁寧さを失わない「傾聴」を心がける
訪問スケジュールが立て込んでいると、つい焦りが態度に出てしまいます。
忙しいときこそ、意識的に「聴く姿勢」を示しましょう。
- 利用者さんの話に「はい」「ええ」と相槌を打つ
 
- 時折うなずきながら、相手の目を見て聴く
 
- たとえ時間は短くても、その間は相手に集中する
 
  
- 話を遮って自分の用件を話し始める
 
- パソコンや記録に視線を落としたまま返事をする
 
- 「でも」「しかし」と話を否定する
 
  
まとめ
今回は、看護における接遇5原則の基本と、現場で活かすための方法を解説しました。
接遇5原則は単なるビジネスマナーではなく、利用者さんの尊厳を守り、安全なケアを提供し、良好な信頼関係を築くための専門的な技術です。
質の高い接遇スキルは、相手の満足度、ひいてはステーションの評価を高め、スタッフ自身を理不尽なクレームや精神的な疲弊から守るのにも役立ちます。
訪問看護ステーションの管理者は、ぜひ明日からのスタッフ教育にお役立てください。