「この利用者さんのレセプト、先月も出していませんでしたか?」——月遅れ請求や返戻の再請求が重なった月に、こんなヒヤリとした経験はないでしょうか。訪問看護の請求は医療保険と介護保険の2本立てで、返戻・月遅れ・過誤といった「通常とは違う請求」も毎月のように発生するため、同じ請求を二重に出してしまう「重複請求」が起こりやすい環境にあります。
結論から言うと、重複請求とは「同じ利用者・同じサービス提供月(または同じ日)の費用を二重に請求してしまうこと」で、原因の多くは請求状況の管理漏れです。この記事では、訪問看護で重複請求が起きる原因、見つかったときの対処と正しい再請求の手順、そして再発を防ぐ管理方法を、事務担当者が明日から使える形で解説します。
この記事でわかること
- レセプトの「重複請求」の意味と、「併算定できない請求」との違い
- 訪問看護で重複請求が起きやすい5つの原因
- 重複請求が審査や保険者の点検でどう見つかるか
- 医療保険・介護保険それぞれの対処と再請求の手順
- 重複請求を防ぐための請求管理台帳とチェックの仕組み
目次
レセプトの重複請求とは?意味と「重複算定」との違い
レセプトの重複請求とは、すでに請求した(または支払いを受けた)費用と同じものを、もう一度請求してしまうことを指します。訪問看護でいえば、「同じ利用者の、同じサービス提供月の訪問看護療養費(医療保険)や介護給付費(介護保険)を2回請求した」状態が典型です。
重複請求は、悪意がなくても起こります。返戻されたレセプトを再請求したつもりが、実は前月にも再請求済みだった、月遅れ請求のつもりで送ったら当月の請求データに同じ利用者が含まれていた——といった「請求状況の把握漏れ」が原因の大半です。
「重複請求」と「併算定できない請求」は分けて考える
現場では、似た言葉として「重複算定」「併算定不可」も使われます。事務処理の上では、次のように分けて整理すると混乱しにくくなります。
| 種類 | どんな状態か | 訪問看護での例 |
| 同じレセプトの二重提出 | 同じ利用者・同じ月の請求を2回出している | 月遅れ請求・返戻再請求で、すでに請求済みの月を再送した |
| 保険制度をまたいだ重複 | 同じ期間の訪問看護を医療保険と介護保険の両方で請求している | 介護保険で請求すべき利用者を、医療保険でも請求した |
| 併算定できない組み合わせ | ルール上、同時に算定できない費用を両方請求している | 同じ日に複数の訪問看護ステーションがそれぞれ訪問看護療養費を請求した |
1つ目は純粋な事務ミス、2つ目と3つ目は算定ルールの理解不足や他事業所との情報共有不足から起こります。どれも結果として「同じものに二重に給付を求めている」状態になるため、審査や保険者の点検で指摘を受ければ返戻・減額・過誤調整の対象になります。
重複請求って、わざと二重に請求するようなイメージでした。うっかりでも起きるものなんですね……。
むしろ、うっかりがほとんどですよ。特に返戻や月遅れが重なった月は要注意。「どの月の分を、いつ、どこに請求したか」を記録していないと、すぐに分からなくなります。
訪問看護で重複請求が起きる5つの原因
訪問看護ステーションで重複請求につながりやすい場面は、おおむね次の5つです。自事業所でどれが起こりやすいかを確認してみてください。
原因1:月遅れ請求で、すでに請求済みの月を送ってしまう
指示書の到着遅れや保険証の確認待ちなどで、一部の利用者を翌月以降に回す「月遅れ請求」は珍しくありません。ところが、月遅れにしたつもりの利用者が実は当月の請求データにも含まれていた、あるいは翌月と翌々月の両方で送ってしまった、というケースが重複請求の代表例です。「保留にした利用者」と「実際に請求した月」を突き合わせる仕組みがないと起こりやすいミスです。
原因2:返戻の再請求を二重に行う
返戻されたレセプトを修正して再請求する際、担当者の交代や引き継ぎ漏れによって、同じ返戻分を2か月続けて再請求してしまうことがあります。また、請求ソフトでレセプトを作り直したときに、元のデータと修正後のデータが両方とも送信対象に残っていた、という事例もあります。
原因3:請求データの再作成・再送信時の確認漏れ
請求データの送信後に誤りに気づき、修正して作り直す場面でも注意が必要です。最初に送ったデータがどの状態(受付済み・審査中など)にあるかを確認しないまま再送信すると、同じ利用者のレセプトが重なる原因になります。送信前後の件数・金額を記録しておくことが、気づくきっかけになります。
原因4:医療保険と介護保険の両方で請求してしまう
要介護・要支援認定を受けている利用者の訪問看護は、原則として介護保険から給付されます。厚生労働省の通知でも、訪問看護療養費(医療保険)は、厚生労働大臣が定める疾病等や特別訪問看護指示書の期間など一定の場合を除き、要介護被保険者等については算定の対象としないとされています。
そのため、たとえば特別訪問看護指示書の期間が終わったのに医療保険での請求を続けてしまう、認定が出た後も医療保険のまま請求していた、といった場合、同じ期間を医療保険と介護保険の双方に請求する形になりかねません。保険種別の切り替え時期は、重複が起こりやすいポイントです。
原因5:他の訪問看護ステーション・医療機関との関係を把握していない
1人の利用者に複数の訪問看護ステーションが関わる場合や、医療機関からも訪問看護が入っている場合にも注意が必要です。令和8年度診療報酬改定後の通知では、次のようなルールが示されています。
- 1人の利用者に複数の訪問看護ステーションが訪問している場合でも、同一日にそれぞれのステーションで訪問看護療養費は算定できない(専門研修を受けた看護師との共同訪問などの例外あり)
- 保険医療機関が在宅患者訪問看護・指導料などを算定した月は、原則として訪問看護療養費を算定できない(厚生労働大臣が定める疾病等の利用者、特別訪問看護指示書の期間で週4日以上の訪問が計画されている場合などの例外あり)
- 24時間対応体制加算は、1人の利用者に対し1つの訪問看護ステーションでのみ算定できる
これらは自事業所の記録だけでは気づけません。契約時や利用開始時に、他のステーションや医療機関からの訪問の有無を確認し、記録しておくことが重要です。
重複請求はどうやって見つかる?審査と保険者の点検
重複請求は、事業所が自分で気づく場合のほか、審査支払機関の審査や保険者の点検によって見つかります。どこで見つかったかによって、その後の手続きが変わります。
審査支払機関の審査で見つかる(支払前)
医療保険の訪問看護療養費は、社会保険の利用者分は医療情報基盤・診療報酬審査支払機構(旧:社会保険診療報酬支払基金。以下「DX審査支払機構」)、国民健康保険・後期高齢者医療の利用者分は国民健康保険団体連合会(国保連)に請求します。介護保険の介護給付費は国保連に請求します。審査の段階で重複などの不備が見つかると、レセプトは返戻として差し戻され、その分は支払われません。
保険者の点検・突合で見つかる(支払後)
支払いが済んだあとでも、保険者の点検で重複が見つかることがあります。介護保険では、介護給付適正化の取り組みとして、国保連が保険者に「縦覧点検」や「医療情報との突合」の情報を提供しています。大阪府の資料では、縦覧点検の帳票に「重複請求縦覧チェック一覧表」があること、医療情報との突合では介護保険の訪問看護と医療保険の訪問看護療養費(訪問看護基本療養費・訪問看護管理療養費など)が突き合わせの対象になっていることが示されています。
保険者はその結果を確認し、疑義がある請求について国保連に過誤申立てを行います。つまり、支払いが済んでいても、あとから重複が見つかれば過誤調整で返還(減額)になるということです。
注意
保険者の点検で見つかった重複は、数か月前の請求にさかのぼって調整されることがあります。過誤調整は当月の支払額から差し引かれるため、件数が多いと入金額が想定より大きく減ることがあります。気づいた時点で早めに対処しましょう。
入金されたから大丈夫、というわけではないんですね。
そうなんです。だからこそ、自分たちで先に気づいて手続きするほうが、あとで慌てずに済みます。審査結果の通知や支払決定の帳票は、毎月必ず目を通しましょう。
重複請求が見つかったときの対処と再請求の手順
重複請求に気づいたら、まず「どちらの請求を残すべきか」と「それぞれの請求が今どの状態にあるか」を確認します。対処の方法は、保険の種類と、支払いが済んでいるかどうかで変わります。
| 状況 | 主な対応 | 手続き先 |
| 審査で返戻された(支払前) | 返戻内容を確認し、重複分は再請求しない。必要な分だけ修正して再請求する | 請求先の審査支払機関 |
| 医療保険・支払済みで事業所が気づいた | 誤って請求した側のレセプトについて取下げを依頼し、必要に応じて正しい内容で請求し直す | DX審査支払機構または国保連 |
| 介護保険・支払済みで事業所が気づいた | 保険者に過誤申立書を提出して実績を取り下げ、必要に応じて再請求する(通常過誤または同月過誤) | 保険者(市区町村)経由で国保連 |
| 保険者の点検で指摘された | 保険者からの照会・通知内容を確認し、指示に沿って対応する | 保険者 |
STEPで見る対処の流れ
- 重複している請求を特定する利用者名、保険種別、サービス提供月、請求した月、請求先を一覧にし、どの請求とどの請求が重なっているかを特定します。請求ソフトの請求履歴と、審査結果・支払決定の帳票を突き合わせます。
- 正しい請求がどちらかを判断する保険種別の誤りが原因の場合は、指示書や認定状況、特別訪問看護指示書の期間を確認し、本来どの保険で請求すべきかを判断します。判断に迷う場合は管理者や看護師と確認します。
- 各請求の状態を確認する返戻されたのか、支払いが済んでいるのかを確認します。状態によって、再請求・取下げ・過誤申立てのどれを使うかが決まります。
- 取下げ・過誤の手続きを行う医療保険の支払済み分の取下げは、DX審査支払機構の様式集にある「再審査等請求書」を使い、対象レセプト1件ごとに提出する扱いが案内されています。国保連分は各都道府県の国保連の案内を確認します。介護保険は保険者ごとに過誤申立書の様式・提出期限・提出方法が決まっています。
- 必要な分だけを正しく再請求する取下げや過誤が処理されたことを確認してから、正しい内容で再請求します。取下げの処理前に再請求すると、再び重複になるおそれがあります。
- 原因と対応を記録する何が原因で重複したのか、どの手続きをいつ行ったのかを記録し、同じミスを繰り返さないための見直しにつなげます。
介護保険の過誤申立て:通常過誤と同月過誤
介護保険で支払済みの請求を取り下げる過誤申立ては、保険者(市区町村)を通じて国保連に実績の取下げを依頼する手続きです。再請求のタイミングによって、次の2種類があります。
- 通常過誤:取下げだけを先に処理し、再請求は後の月に行う。取り下げた給付費の全額がいったん減額される
- 同月過誤:取下げと再請求を同じ審査月に処理し、差額だけが調整される。事業所の一時的な資金負担が軽くなる
同月過誤にする場合は、過誤申立書の提出月と再請求の時期をそろえる必要があります。たとえば東京都中央区は、過誤申立書の提出期限を毎月20日(必着)と案内しています。期限や提出方法(郵送・電子申請など)は保険者ごとに異なるため、利用者の保険者の案内を必ず確認してください。
過誤申立書には申立理由番号を記入します。中央区が公開している一覧では、「02 請求誤りによる実績取下げ」「12 請求誤りによる実績取下げ(同月)」のほか、保険者側の適正化による取下げとして「適正化(医療突合)」「適正化(縦覧点検)」などの番号が並んでいます。事業所が自ら重複に気づいて取り下げる場合は、請求誤りの番号を使うのが一般的ですが、記入方法は保険者の記入例に従ってください。
POINT
医療保険の取下げの考え方や手続きの全体像は、別記事「レセプトの取下げとは?手続き方法と防ぐための3つの対策」で詳しく解説しています。重複請求の対処で取下げが必要になったときは、あわせて確認してください。
利用者負担分の確認も忘れずに
重複請求の取下げや保険種別の訂正を行うと、利用者の自己負担額が変わることがあります。たとえば医療保険から介護保険へ請求をやり直す場合、負担割合や計算方法が異なるため、すでに受け取った利用料との差額が生じる可能性があります。保険側の手続きだけで終わらせず、利用料の請求書・領収書の内容も見直し、差額があれば利用者・家族に説明したうえで精算しましょう。
重複請求を防ぐための管理方法とチェックリスト
重複請求の多くは「請求状況が見えていない」ことから起こります。次の3つの仕組みを整えると、大半は防げます。
1. 請求管理台帳で「どの月を・いつ・どこに」を見える化する
利用者ごとに、サービス提供月・保険種別・請求した月・請求先・審査結果(支払・返戻・過誤など)を1行で記録する台帳を作ります。月遅れや返戻の利用者は「保留中」「再請求済み」などの状態を必ず更新します。請求ソフトに管理機能があればそれを使い、なければ表計算ソフトでも十分です。
| 項目 | 記入例 |
| 利用者 | A様(利用者ID) |
| サービス提供月・保険種別 | 令和8年9月分・医療保険 |
| 当初の扱い | 指示書到着待ちのため月遅れ(保留) |
| 請求した月・請求先 | 令和8年11月請求・国保連 |
| 審査結果 | 支払決定(令和8年12月通知) |
2. 送信前に「前月以前の請求」と突き合わせる
請求データを送信する前に、今月の請求対象者のうち「月遅れ・返戻の再請求」にあたる人を抜き出し、台帳で過去に同じ月を請求していないかを確認します。件数が少なくても、この1工程を省かないことが大切です。
3. 保険種別の切り替えと他事業所の利用を記録する
要介護認定の結果、特別訪問看護指示書の期間、厚生労働大臣が定める疾病等への該当の有無など、保険種別が変わる情報は、看護師から事務へ必ず共有されるルールにします。あわせて、他の訪問看護ステーションや医療機関からの訪問の有無も、利用開始時と変更時に記録しておきます。
送信前チェックリスト
- 月遅れ・返戻の再請求分は、台帳で過去の請求月を確認したか
- 同じ利用者・同じサービス提供月のレセプトが2件以上ないか
- 保険種別(医療・介護)の切り替え時期と請求内容が合っているか
- 他のステーション・医療機関と同一日・同一月の算定が重なっていないか
- 前回送信分の受付状況・審査結果を確認したか
チェックは作成者とは別の人が行うと、見落としがさらに減ります。提出前の点検全体の進め方は「訪問看護レセプトの点検方法」の記事も参考にしてください。
最初は月遅れと返戻の利用者だけ記録する、でもいいんですよ。重複が起きるのはほとんどその人たちですから。慣れてきたら全員分に広げましょう。
よくある質問
重複請求に気づかずに入金されてしまった場合はどうなりますか?
支払後でも、保険者の点検などで重複が見つかれば、過誤調整として後の支払額から差し引かれることがあります。事業所が先に気づいた場合は、医療保険なら取下げの依頼、介護保険なら保険者への過誤申立てを行い、必要な分だけ正しく再請求します。
重複請求と返戻はどう違いますか?
重複請求は「同じものを二重に請求した」という誤りの内容を指し、返戻は審査で不備が見つかったレセプトが事業所に差し戻される処理を指します。重複請求が審査で見つかった結果として、返戻になることがあります。
同月過誤と通常過誤はどちらを選べばよいですか?
正しい内容で再請求する必要がある場合は、取下げと再請求を同じ審査月で処理する同月過誤にすると、差額だけの調整になり一時的な減額を抑えられます。ただし、保険者の提出期限と国保連の請求期限に間に合わせる必要があるため、保険者の案内を確認して選びましょう。
医療保険と介護保険の両方で請求してしまった場合、どちらを取り下げればよいですか?
要介護・要支援認定を受けている利用者は原則として介護保険が優先されますが、厚生労働大臣が定める疾病等や特別訪問看護指示書の期間などは医療保険の対象になります。指示書や認定状況を確認して本来の保険を判断し、誤っている側を取り下げます。判断に迷う場合は管理者や看護師と確認しましょう。
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レセプトの重複請求は、月遅れ請求・返戻の再請求・保険種別の切り替え・他事業所との関係など、訪問看護の請求ならではの場面で起こりやすいミスです。支払後でも点検で見つかれば過誤調整の対象になるため、気づいた時点で正しい手続きをとり、再発を防ぐ仕組みを整えましょう。
この記事のまとめ
- 重複請求とは、同じ利用者・同じサービス提供月(または同じ日)の費用を二重に請求してしまうこと
- 主な原因は月遅れ・返戻の再請求の管理漏れ、医療保険と介護保険の取り違え、他事業所との算定の重なり
- 支払前なら返戻、支払後でも保険者の点検で見つかれば過誤調整の対象になる
- 対処は「どちらが正しいか」と「支払済みかどうか」を確認し、取下げ・過誤申立てのあとで正しく再請求する
- 請求管理台帳と送信前の突き合わせで、重複請求の大半は防げる
まずは今月の月遅れ・返戻の利用者について、過去の請求月を台帳で確認するところから始めてみましょう。
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出典・参考(公的機関)
取下げ・過誤申立ての様式、提出期限、提出方法は審査支払機関や保険者ごとに異なり、変更されることがあります。実際の手続きにあたっては、請求先の審査支払機関および利用者の保険者の最新の案内をご確認ください。